ポエトリー:
「鹿」
探り合っている風だったから
ほくらは隣り合う桜の木から一旦離れて
それでもそれほど間を置かずに合流をした
そもそもここにいる理由は
ある灌木の腰の辺りが
丁度よい角度でこちら側を向いていたからであって
連れ立って歩くぼくたちの背格好に
本来の意味を与えてくれているような気がしたから
その間、鹿がずっとこちらを見ていた
眼が水晶のような光り方をしていたので
ぼくらは少し言い淀んで
少しだけ前に止んだ雨でできた水たまりを指さし
ここは避けようと言いあった
早く腰を落ち着けるようにと言った両親のことばが
今さらのように思い出される
容姿と言動が異なるぼくらがベッタリとしている間に
鹿はどこかへ行ってしまった
ぼくらはいつのまにか
サイズ感の異なる円形劇場の端に腰をかけていた
産みの苦しみなどまるで感じなかったけど
あとから振り返ると今はきっとその類なのかもしれない
そう正直に言うと
さっきどこかへ行ったはずの鹿がまた現れて
ぼくときみは思わずぎょっとした
2024年6月