コロナ禍に縮こまっていた2年を過ごし、 本格的に動き始めた2022年。創作期間がたっぷり取れたのか、 良い作品が幾つも生まれた。 とりわけ困難な一年となった2022年ではあるが、 不思議と社会的な出来事を直接的に表現する作品は少なかったよう に思う。むしろ音楽として単に良いものを作りたい、 みんなそこにフォーカスしていたのではないか。 それぞれが自身のストロングポイント、 或いは以前より新しく取り組みたいと思っていたことに本腰を入れ 突き詰めていく。 平常心に戻った作家が初期衝動に戻っていった1年なのかもしれな い。
ということで来年以降は一転、 シリアスな作品も増えていくのかもしれないが、 とにかく今は新しい人も名うての古株もそれぞれが腕を振るった極 上のベリーベストに身を委ねたい。 というところで真っ先に名前を挙げたいのがアークティック・ モンキーズ。 随分と風変わりだった前作の延長線上に見事な歌のアルバムを用意 してくれた。アレックス・ ターナー歌謡ショーのような新作は時間が経つごとに魅力が増す不思議な味 わい。さてはまたもやこれで何年も持たすつもりか(笑) 。
もう一方の英国の雄、 The1975は逆にこれまであった実験的要素は皆無のカードが 全部表にひっくり返ったみたいなポップ・チューンの連打。 レディオヘッドならぬザ・スマイルもカッコいいギター・ ロックを聴かせてくれたし、 どこの年間ベストにも名前は挙がらないが、 同じくベテランのステレオフォニックスも近年まれにみるカッコい いロック・アルバムだった。有名どころ以外にもウェット・ レッグを筆頭に個性的な若手もどんどん出てくるし、 英国ロックは更にいい感じだった。
あと2022年は日本に関わりのあるアーティストが躍進した年と しても記憶される。ミツキとJojiは共に全米チャート5位。 リナ・サワヤマは全英チャート3位。移住した時期は違うけれど、 日本で生まれ日本語をネイティブに話し、 叩き上げでここまで来た彼彼女たちの快挙は日本であまりにも知ら れなさすぎ。欧米でちょっと有名、ではなくマジで聴かれています。己の才覚でここまでのし上がった彼彼女たちは素直にカッコいい。
さて、僕の2022年ベスト・アルバムは何だったか。 世間的には海外ではビヨンセとケンドリック・ラマーとハリー・ スタイルズ、 国内では宇多田ヒカルと藤井風といったところだろうが、 僕はあくまでもロックが聴きたい。というところで見れば、 ビッグ・シーフと優河の一騎打ちだ。 追いかけるのはアークティックとThe1975。 ビーバドゥービーや羊文学も結構聴いたぞ!
僕は基本的に英国インディ・ロックが好きだ。 一方でどうやら米国インディ・フォークも好きらしい。 ウィルコしかりビッグ・シーフしかりボン・イヴェールしかり、 振り返ってみると自然と体がそうなっていた。いや、 分かるようで分からないリリックが好きなのかもしれない。 そういう流れでまさか日本人アーティストでそれを体現する人がい たなんて知らなかった。 魔法バンドと共に作り出したそこにある雨風と時折差し込む光とし てのサウンド。 そこにあるゆらぎを言葉にしようとするトライアル。2022年、 僕のベスト・アルバムは優河の『言葉のない夜に』にしたい。
今年は大変なことが起きたなぁではなく、 大変なことが起きるのが普通になりつつある現在。 僕たちは新たな混乱の戸口に立っているのかもしれない。 とすれば本番はこれから。 遠い昔の出来事だったあらゆる物事が僕たちの出来事になる前夜。 これまで音楽や映画や文学を通して社会や歴史を学んできたように 、これからもどなたかも分からぬふわふわとした言説ではなく、 顔の見える作家たちの屹立する個の声を聞いていきたい。
ちなみに僕の2022年ベスト・トラックはウィルコの『 Hearts Hard To Find』。ついでに言うと2022年にSpotifyで最も聴いたアーティストもウィルコ でした。あと、佐野元春の『今、何処』も間違いなく2022年を代表する作品ではありますが、ここでは選外にしています。 十代の時からのファンなもので、客観的な判断はできませぬ。ていうか洋楽ベスト・アルバムって割には邦楽への言及が多くなったな(笑)。