ポエトリー:
『彼女は栄養補給に余念がない』
地下街のジューススタンドで
彼女はいつもミックスジュース
残り僅かな生を詰め込む
栄養補給に余念がない
彼女は大学のキャンパスで
小鳥のさえずり 不確かな声を啄む
彼女は栄養過多
情報収集に余念がない
友達から相談を受けた
恋人をどちらにするかで迷っているらしい
彼女は親身になって聞いてあげた
彼女は友達だから
彼女にも恋人は一応いる
けど好きなんだかどうだか
そのくせ、お揃いでスキニージーンズ
そのくせ、既読は翌々日
彼女は21になったばかりで
21年分の煩わしさ 紙切れのように小さく折り畳み
大学の図書館の隅、
21-Cの棚に投げ込んだ
彼女の視線の先には
いつもコントロール出来ない煩わしさがあって
その重箱の隅をつつくような視点は
いつも僕を困らせた
彼女は僕より二つ下
けどいつも彼女は二つ上のフリ
ごめんよ
君が欲しいものが僕にはまだ見つからない
道行く人にやたら愛想よく
近くの人も遠くの人も気に掛ける
彼女は実は虚弱体質
密かに息をひそめている
そうさ、誰にだってすべてのありかを探す術は無く
出来ることはちゃんと自分の手綱を握っておくこと
そんなことあなたに言われなくたって
また二つ上のフリをして 彼女は教室を後にした
あれから半年ほど経ったけど
結局、友達は誰とも付き合っていない
変わったことといえば、地下街のジューススタンドが派手な飾りつけを発明してSNSで少し話題になったこと
彼女が髪をグレーに染めたこと
自意識が埋もれてしまう前に
地下街のジューススタンドへ
残り僅かな生を満たすため
彼女は栄養補給に余念がない
2018年7月