Month: 8月 2025
海へ
ポエトリー:
「海へ」
あからさまに物言うことがなくなってきた
ひどいことばに打ちのめされることも
夕焼けは夕闇に吸い込まれ帰るべくして帰る
それが自然なことだと知ったのは
物言わぬ生に気づいたからかもしれない
変わり果てた銘柄の
名のある様式がプラスチックゴミとともに
プカプカと浮かんでいる
その様子を描くことをわたしのパレットはゆるさない
その絵具は誰ひとり不平は言わないけど
ゆるさないこととゆるすことの間に漂う棒切れのような営みを
駆け寄って奪い合うほどの熱意が
今の私にはもうない
ただだからといって素知らぬふりなどできぬ意気地のない身体は
漂うプラスチックゴミと時を同じくして
戯れに点描の彼方を見やることで
己の均衡を保っている
背広の襟がたわむようにして沖へ
もう無理だと先を急ぐ群れにわたしはたったひとりでジャンプする
水飛沫あげる海
2025年6月
海
ポエトリー:
「海」
魚の骨が刺さっていた
どこにというわけではないが
おそらく胸元に
魂が代わりたがっていた
少しぐらいいいかと思った
まずは形をどうするかで悩んだ
ここはやはり魚の形だろうか
海を見すえると胸が高鳴った
そんなものだろうか
あげく、山育ちだけど
泳いでみるのもいいと思った
海へ入ると胸の形が感じられた
息をめいっぱい吸って怒られることがないこと
魂は思っていたより軽い
しかし魂には期するものがあった
戻る気配を与えなかった
眺めると何か刺さっているものがあった
これを引っこ抜けばいいのだ
決意させたかったのだきっと
余分な力を抜いて
フレッシュな気持ちになって
決意させたかった
そう知ると涙が溢れてきた
涙は海だった
そうか
そうだったのか
わたしはゆっくりと歩いていった
ひたひたと音がして
足跡が残った
2025年6月