ポエトリー:

「時」

 

よどみなく消える、時間は
良いときも悪いときも
見さかいなく

わたしたちの舟はゆれる
岸が離れていても近くても
水草に手が届くなら
それが安心

いつからかわたしたちは
困り果てた顔をする
自由だからか
不自由だからか

しかし確かに
訪れるものがある

その日が来るとしたら
きっと今朝のように寒い日かもしれない
それは鉢に薄い氷が張るようなとても寒い日
それは水草の間に花が咲くようなきらびやかな日

一番小さなしあわせがわたしたちを満たすとき
時間はわたしたちだけのものになる
それが行って過ぎるまで

 

2025年2月

そのひとりとして

ポエトリー:

「そのひとりとして」

 

外から溢れて
中に入るものがあるなら
わたしはそれを無為にできない
そのひとりとして

訪れるというより
迎えるもの
今日の日、明日の日しか
出口はないのだから

器用に折りたたんでしまえたものが胸元にあって
いつしか取り出す
そんな未来

想像することはタダだから
その受け皿として
わたしは在る

 

2025年4月

Make ’em Laugh, Make ’em Cry, Make ’em Wait / Stereophonics 感想レビュー

『洋楽レビュー:
 
『Make ’em Laugh, Make ’em Cry, Make ’em Wait』(2025年)Stereophonics
(メイクエム・ラフ、メイクエム・クライ・メイクエム・ウェイト/ステレオフォニックス)
 
英国の国民的バンド、2年ぶり13枚目のオリジナル・アルバム。今作の収録時間は30分にも満たないフォニックス史上最も短いアルバムだそうです。短かろうが何だろうがデビュー以来ほぼ2年おきの新作を出し続けているわけですから、たまにはこういうのもあるでしょう。で、当然のように英国チャート1位!これで9作目の1位!
 
彼らの場合、これぞフォニックスなロック・アルバムと割と大人しいアルバムを交互に出すイメージがありますが、今作はみんなの期待するフォニックスですね。前作も最高だったのですが、その後に静かなケリー・ジョーンズのソロ作を挟みましたから、今回は定番のということでしょうか。ていうかその方が彼ら自身も楽なんじゃないか。
 
毎回思うんです、流石にフォニックスもそろそろアカンのん出すんちゃうかと。で、ちょっと心配しながら聴くわけですけど、いつもあらゆる面で期待の少し上を行く。ていうか大人気バンドですから、普通は期待しまくるんですけど、彼らの場合は何故かハードルを低く設定しちゃうんですね、そろそろアカンやろと。でも聴くとやっぱフォニックスええわ~と言わせてしまう。
 
先行シングル「There’s Always Gonna Be Something」がいなたいミドルテンポの曲で、なかなかいいんじゃないかと思わせつつ、それでもアルバムはどうかねぇ~などど思いながら、1曲目の「Make It On Your Own」を聴けば、わぁ最高!となっちゃう。我ながらいい加減なもんです。1曲目のストリングスの使い方なんて職人技ですな。渋い声でのスロー・ソングも挟みつつ、5曲目の「Eyes Too Big For My Belly」では趣向を凝らしたワイルドな曲でワクワクさせる。なにがどうというわけじゃないんですが、非常に手堅い、外さない。不思議なバンドです。
 
流石に30分弱ということで物足りなさはある。渾身の1曲!というのもなさそうだし、肩の力を抜いてリラックスしてやりゃあこんなの出来ちゃったという感じ。実際はそんな簡単な話でもないだろうけど、今回も期待のちょっと上を行く作品。結局あの声がすべてかなのだろう。来日公演してくんないかなぁ~

Never Know / The Kooks 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Never Know」(2025年)The Kooks
(ネバー・ノウ/ザ・クークス)
 
 
3年ぶりの7作目。2006年のデビューだからもう20年近くなる。当初はリリースが遅い印象があったが、このところは定期的に新作を出している。ベテランの域に入り、新しいことをしなくてはならないというプレッシャーからいい意味で解放され、自然体で取り組めているのかもしれない。ウィキで調べると若く溌溂としたルーク・プリチャードももう40才。でも鼻にかかった独特の声は変わらないのが嬉しい。
 
前作はアルバムという意識から離れていたせいか、シングル集的な色合いが強かったが、今回はアルバムとしてのまとまりが出ている。もともとガチャガチャとしたロックでスタートした彼らだけど、そのしゃくりあげるボーカル・スタイルと相まって、ソウルやファンクといった黒っぽい要素が個性になりつつもあり、その最たるものが4th『Listen』(2014年)であったわけだけど、そこでの思い切ったトライアルがその後の作品にしっかりと根付いていて、気がつけば他に替えのきかない個性的なバンドに。ファンも根強く本作もしっかりと全英4位。
 
クークスと言えばルークのボーカルだけどギターも聴きどころ。派手にギャンギャン鳴らすタイプではないが、このバンドの記名性に大きな役割を果たしており、今回もことあるごとによいフレーズが聴こえてくる。しっかりと背後でよい仕事をしている中、#6「Compass Will Fracture」の最後のように不意に爆発する感じがたまらない。ところでこの曲のサビはルークの声ではないようだけど、ギタリストが歌っているのか?
 
今回の特徴の一つはコーラス・ワーク。#2「Sunny Baby」では顕著だけど、それ以外にも何気ない形でコーラスが多用されている。レトロなソウル#8「Arrow Through Me」なんて雰囲気がとてもよく出ていて最高。それにしても巧みなソングライティングだ。色んなタイプの曲があって、よく聴くと複雑な構成でテンポも変わる。しかしそうとは感じさせないスムーズさ。一部でキーボードを使用しているけど、基本はギターとドラムとベースのみ。しかも手数で誤魔化すのではなく、必要最小限の表現で表情豊かにとらえていく。今まで気づかなかったけど、このメンバーすごいかも。
 
やってることは凄いのに大したことしてないぜという軽やかさ。オープニングの表題曲「Never Know」における落ち着きといい、ガチャガチャとしたロック小僧がいつのまにやらポップ職人である
 

適温

ポエトリー:

「適温」

 

心の糸がもつれている
すべてをスタンダードに戻したい
鍵穴は壊れてしまった
雨音は数え切れない

地道にいきたい
仮にスペースがあっても
もう小躍りしないで
ゆき過ぎる

その事自体に罪はない
しかしそれを無条件で受け入れるなんて
今のぼくには若さが足りない

夕暮れはもたつきながら春の様相
セーターの毛玉をほつきながら
ぼくは適温を探している

 

2025年3月