Can We Please Have Fun / Kings of Leon 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Can We Please Have Fun』(2024年)Kings of Leon
(キャン・ウィ・プリーズ・ハヴ・ファン/キングス・オブ・レオン)
 
 
2021年以来の9枚目のアルバム。約20年のキャリアだから2年に1枚、なかなかのペースでアルバムを出している。米国のバンドだが、英国では出せばチャート1位という人気ぶり。日本ではあまり知られていないが、今や数少ないヘッドライナークラスのロック・バンドである。
 
とはいえなんか垢ぬけない印象があるのも確かで、グラミー受賞歴もあるがなんでそこまで人気があるのか僕もよく分からない。一番はみんなが想像するロック・バンドというイメージに割と近いからかなぁなどと思いつつ、確かにライブ映えしそうなバンドで、キラー・チューンはいっぱいある。かなり盛り上がるんやろうな。僕も一度は見てみたい。
 
ということで本作にもここぞのキラー・チューンがあると思いきや、今回は目玉になるような曲は見当たらない。前作『When You See Yourself』(2021年)はよいメロディがありつつエモい感じもあって、ここ数年のキングス・オブ・レオン作品の中では結構上位に来る好きなアルバムだったんだけど、今回はメロディに関してはちょっと弱いかな。
 
ただ、らしいというか、彼らはギター・バンドなんだけど、単にジャカジャカ鳴らすとか、リフで誤魔化すとかそういう大雑把なことはしないバンドで、凄く工夫をしたギター・アンサンブルを聴かせてくれる。ギター・バンドなんだから音でっかくして隙間を埋めちゃえなんてのはありがちだけど、彼らはいつもしっかりと考え、隙間を活かした凝ったギター・フレーズを重ねる。もしかしたら、そういうところがロックの本場、英国で好かれる要因なのかもしれない。音楽好きはそういう細かいところをちゃんと聴いているからね。

片手で測ってしまえれば

ポエトリー:

「片手で測ってしまえれば」

 

長い運河の成れの果てで
片手で測れる音を聞く
その景色を十分毎に刻み
アニメーションにして語るほどの語彙はあるのかと
急に濁流になるくだり
そこはスナップショットにして
あぁ、そういうことあったよねと
肩の荷を降ろし
向かい合った片方のレンズ
そう、対角線になって
覗くとほら
騙されたような気分になって
一瞬でスカッとするのさ
いわゆるその類いのスピード
コマ送りにするまでもなく全部が全部
窓ガラスにへばり付いた結露と一緒に
サッーと落ちてゆく
それを内気と外気の温度差と言い換えていい
いい、いい、
もう焼きつけたから全部それでいい
長い運河の成れの果て
後になってからででも
片手で測ってしまえれば

 

2024年2月

こんな夜に

ポエトリー:

「こんな夜に」

 

こんな夜に
あなたにおねだりしたいことは
グミ、あるいはチョコ
それともなんのことばだろう

やわらかい海の耳鳴り
その浮き沈みに合わせるように呼吸をすると
静かにしないでもちゃんと聞き分けられる

こんな夜に

目ぼしい魚をひとつひとつ
うお座でなくても空にあて
新しいものでも見つけたように
興奮するひととき

珍しいことにあなたもぼくに合わせてくれて
あれでもない、これでもないと
短いけどそんな交信
あったような気がした

接近する光線に手をかざすあなたが
ガラス戸に映って
出たり入ったりするあいだ
ぼくはこんなにも湿っぽい面してる

でもその場からは
けっして逃げ出したりしないように
健康的な湯上がりのような
正当防衛する体がほしい

こんな夜に
あなたにおねだりしたいこと
グミ、あるいはチョコ
甘いもので心を浸すことができるなら
今はもうそれで満足です

 

2024年4月

Inevitable Incredible / Kelly Jones 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Inevitable Incredible』(2024年)Kelly Jones
(イネヴィタブル・インクレディブル/ケリー・ジョーンズ)
 
 
ステレオフォニックスのフロントマンでありソングライターのケリー・ジョーンズによるソロ・アルバム。バンド以外ではこれが3作目だそうな。2022年にフォニックスとしてのアルバムが出ているから2年ぶりの作品にはなる。相変わらず、デビュー以来2年ごとに新作というペースを守り続けている律義者である。こういうところが英国で抜群の人気を誇る理由のひとつなのだろう。
 
とはいえ、同じことはずっとし続けられない。なので、その時々の時勢に寄ったサウンドになってもおかしくないところだが、ケリー・ジョーンズはつまみ食いみたいなことはしない。インディーロックが流行ればそれ風のを作ってみたり、カントリーが流行ればそっちに行ってみたりもしたくなるだろうが、頑固一徹、ケリー・ジョーンズはもっぱら自らの手の届く地に足の着いたサウンドしかやらない。
 
フォニックスはバリバリのギター・バンドですが、このソロ作はいたって静か。ピアノとオーケストラが主体の厳かなアルバムです。バンドの時もストリングスの使い方が非常に上手い人ですけど、その技量は健在。冗長にならずに必要な箇所に必要なだけ取り入れる。あくまでもソングライティングありきだということ。
 
しかしまぁ不思議なのは、この一見なんの特徴もなさそうな曲が淡々と8曲続くわけですけど、ちゃんと聴いていられるんですね。普通は退屈ですよ、こういう動きの少ない曲がずっと続くのは。1曲の中で派手にメロディが動きまくるJ-POPとは対極になるような単調なメロディ。でも似たような曲にはならないし、なぜか心に響く不思議。
 
あの独特のシブい声というアドバンテージはあるけれど、それだけでは説明できない何かがある、ということを改めて知る。そんなアルバムです。

海のしずく

ポエトリー:

「海のしずく」

 

ぼくに遺された
海のしずく
貝殻に
耳をすます

音に聞く
昔の人の生業が
長い四季を繰り返し
無理なことから流れていく

確かゆうべは砂浜で
変わり変わらぬ唄を思い浮かべ
静かな夜気を楽しんでいました
夢の中で

置いてある誘導灯が
最初からそこになかったような顔をして意地悪をする夜がある
初めからそこになかったような顔をして

あの子はいつもぼくをかき回す
遺った手ざわりがすっぽりとしまわれた貝殻に
いつまでも海の斑点が続く

 

2024年4月