ライブ・レビュー:
中村佳穂 「TOUR NIA・near 」大阪フェスティバルホール 2022年10月27日
念願の中村佳穂のコンサートに行きました。いや、 もう凄かったです。 才能だけで突っ走ってもいいぐらいの人だと思うんですが、 ちゃんとエンターテインメントとしての構成を考えられたショーに なっていて、 しかもバンドのメンバーそれぞれがメインを張るような場面も用意 しているし、今振り返るとどれかひとつということではなくてあれやこれやと色んな場面が印象に残って、アンコール含め約2時間、あっという間でした。
普通、 初っ端は景気のいい曲をやってお客さんを引きつけるってのが常道 だと思うんですが、中村佳穂はそれどころかなかなか歌いません( 笑)。初っ端からメンバー紹介、 んで今日はよろしくお願いしますって感じでMC、 でもそれはお喋りというより歌で伴奏を付けてのアドリブ、 今日の気分を鼻歌みたいに歌う、 そんでもって気付いたらその流れでオリジナルの曲を歌うみたいな (笑)。もう自由過ぎて素敵です。
終始ずっとそんな感じだし、アレンジもオリジナル・ バージョンとは大幅に変えてくるし、ホント、 歌いだすまで何の曲か分からないっていう世に言うボブ・ ディラン状態(笑)。 いろいろな表現を用意してはいるもののそれらはすべて音楽、 そうじゃないところで演出するってことではなくあくまでも音楽で の表現っていうところがやっぱり音楽のライブに来たって感じで最 高でしたね。
バンド編成はドラム二人にコーラス二人にベースが一人、 それと中村佳穂のキーボード。 リズム主体のこの編成も面白かったですね。 ぐるんぐるんとグルーヴ感の極みのような曲もありましたし、 歌い手3人だけでステージに立つ時もありました。 あとアンコールではみんな真ん中に集まり、最小限の楽器で『 KOPO』を演奏するっていうピクニックみたいな楽しい瞬間もあって、 冒頭にも述べましたが、 強弱を付けながら中村佳穂バンドのいろんな面を満喫できまし た。そうそう、生で聴いた『LINDY』 はレディオヘッドみたいでした。
あとこれぞ中村佳穂、というようなステージに一人で立つソロ・ パートもあって、そこもアドリブみたいに「 今日は何を歌おうかなぁ」って喋りながら歌って、 始めたのはなんと皆知ってる童謡の『あんたがたどこさ』。 これが超早弾きキーボードを交えつつ縦横無尽のアレンジ。うん、 ここは中村佳穂スゲーっていうパートでしたね(笑)。
そんな天才性を垣間見せる中村佳穂ですが、 我々観客が感じるのは親密さ。リビングにお邪魔して、 ちょっと歌を聴かせてもらうみたいな。もちろん、 圧倒的なステージでそれはそれは鮮やかな才能のきらめきなんですけ ど、感覚としてはなにか親密さがある。これはやっぱり「皆さん、 健やかに~」ってメッセージを発する彼女のキャラクターゆえ、 なのかもしれませんね。
ってことでお客さんもパッと見、 いい人ばかりのような気がします(笑)。 いやでも冗談じゃなくて、 ここにいる多くの人たちは傷つきやすくナイーブな人なんじゃない かなって。 ライブ中のみんなの立ち居振る舞い、大人しくて控えめな感じからそんな印象を受けました。あ、自分のことを言っているわけじゃないです(笑)。
そうそう、会場へ入場するところで、中村佳穂直筆のプリント( 小学校でもらうプリントみたいなイメージ)が配られて、 僕はそれを見ながらフェスティバルホールの長いエスカレーターに 乗っていたんですね。すると、手を滑らせてそのプリントを落としてしまった。 それはヒラヒラッとエスカレーターの間に落ちてしまって僕はもう あきらめかけたんです。そしたら後ろの人たちが皆でそれを拾ってくれたんですね。なんかスゴイ嬉しかった。みんな当たり前のように必死に取ろうとしてくれたんです。なんかあそこにはそんな優しさオーラがあったのかなぁ。改めまして、拾うとしてくださった方々、どうもありがとうございました。