フェスティバル

ポエトリー:

「フェスティバル」

 

音楽に沿って未来を見ていくことは美しいこと
絵画を捉えて、こころは穏やか
新しいことを始めるには
まずは絵筆を整え形から

パレットに絵の具を垂らして
五線譜の行方、新しい助走
音楽は始まっているね
そうだね、わたしたちも今から行こうかね

筋肉は付かない
大きな公園へむかって
黄色のバケツを持ってみんな集まりだす
七色のフェスティバルのはじまりだ
僕たちのフェスティバルのはじまりだ

 

2021年5月

W.L. / The Snuts 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『W.L.』(2021年)The Snuts
(W.L./ザ・スナッツ)
 
 
このところ英国初のロックが元気だ。長い間ヒップ・ホップやダンス・ミュージックに押されっぱなしだったが、若い才能が次々と登場している。当初はアイドルズやフォンテインズD.C、シェイムといったポスト・パンクと呼ばれる威勢のいいバンドが多かったが、今年に入り、長尺ジャム・バンドのブラック・カントリー・ニュー・ロードやポエトリー・リーディング主体のドライ・クリーニングといった風変わりなバンドまでもが英国アルバム・チャートのトップ10入りを果たしている。
 
長尺ジャム・バンドやポエトリー・リーディングがトップ10ヒットになるなんて流石ロックの国だなと感心するが、そことは真逆のポップ・サイドの真打と言えそうなのがザ・スナッツ。中学校で出会った仲間とバンドを組み、アークティック・モンキーズに影響を受けたというから、その背景もまさに正統派ロック・キッズだ。
 
アークティックへの憧れで言えば、#3『Juan Belmonte』はアルバム『AM』期のアークティックだし、続く#4『All Your Friends』はまんま初期のそれ。けれどアルバム全体を聴いていると、アークティックだけではない、00年代、10年代ロック音楽の影響をそこかしこに感じることが出来る。
 
まず思い浮かべたのは、彼らと同じスコットランド出身のザ・ビュー。シャウト気味に歌う時の声がカイル・ファルコナーそっくりやね。このところ名前を聞かなくなったが、ザ・ビューも勢い重視と思いきや音楽的素養確かな連中で、しかもとっつきやすいメロディーが最大の持ち味という点では割と近いかなと思います。
 
あと、#10『Don’t Forget It (Punk)』とか#11『Coffee & Cigarettes』の職人的なソングライティングには、これは英国じゃないけど、フォスター・ザ・ピープルに通じるところがあって、そう思うと声までマーク・フォスターに似ている気がしてくる。マーク・フォスターはデビュー前にCM音楽なんかを手掛けていたというから、それに近い職人気質だってザ・スナッツはあるのかもしれない。
 
あとやっぱりロック・バンドと言えども2020年代でもあるわけだから、当然のことながら4ピースだけでドカンということじゃなく、ちゃんと電子的なアレンジも施されていて、コーラスもそうだけど耳を凝らせばいろんなフレーズが飛び込んで来る。彼らを代表するロック・チューンになりそうな#6『Glasgow』だって単純にドカンじゃないもんな。この辺はそれこそフォスター・ザ・ピープルもプロデュースしたことのあるトニー・ホッファーの手腕も大きいのかもしれないけど、そうは言っても、やっぱり彼らにその素養があるのだと思います。あ、勿論4ピースでドカンも僕は好きです。
 
いい曲を沢山書けて、それを料理する技術とセンスも持っている。今後これがどこまで続くか分からないが、多分彼らの推進力は初期衝動だけではなさそうだ。あちこちに気の利いたギター・フレーズを忍ばせたり、アルバム最後をしっかりロック・バラード#13『Sing For Your Supper』で締めるとこなんざ、まさに王道ギター・ロック・アルバムと言っていいだろう。
 

はいはい、そういう人ね、に対するリベンジ

「はいはい、そういう人ね、に対するリベンジ」
 
 

先日アップした『TIME OUT!』でこのブログでの佐野のアルバム・レビューも残すは80年代の作品のみとなった。ブログを始めた当初にその時点での最新作から遡ってのレビューを始めたのだが、もっとスイスイ進んでいくはずが結構な時間がかかっている。この分だといつ終わるか分からないが、誰に頼まれたわけでもなく好きで書いているので、多分これからもこの調子だろう。

過去に書いたものを読んでいると、肩に力が入っていて今ならもう少しうまく書けるのになぁとも思うのだが、それはそれでその時の記録だし、何よりありがちな批評ではなくちゃんと僕なりの視点を持てていると思うので、​これは​そのままにしておきたい。てことで昔の作品のレビューの方がこなれた感じになっていくという不思議な現象になってはいるが、まあいいなんにしても好きなことを書くのは楽しいものだ。
 
僕は思春期でもないのにいまだに人に佐野のファンだと言うことに抵抗がある。二十歳前後の頃、僕の事などロクに知らないくせに、佐野ファンだと言うと「あぁ、そういう人ね」みたいなことを言われたのをずっと引きずっている。2、3年前にも似たようなことがあって、だから嫌なんだと改めて思った。
 
このブログの三本柱は拙い自作詩と洋楽レビューと佐野元春。ブログを始めた理由は色々あるけど、佐野についてはもしかしたら二十歳前後の時に受けたこの仕打ちへのリベンジという意味合いどこかにあるかもしれない。僕自身に降りかかった誤解も含め、レジェンドと言われる割には音楽自体があまりにも知られていない佐野元春という稀有な音楽家のことを出来る限り誠実に発信していきたい。大げさな言い方になるけど、もしかしたらそれは佐野に対する僕の恩返しかも、なんて思っています。
 
最近じゃ、佐野のこと「誰それ?」って人が思った以上に多いから(笑)
 
 

TIME OUT! / 佐野元春 感想レビュー

『TIME OUT!』(1990年)佐野元春
 
 
『僕は大人になった』という曲が好きだ。特にどうと言うこともない曲だと思うけど、佐野自身も好きなのかよくライブで演奏する。昔からのファンはこの曲と『ガラスのジェネレーション』を結びつけてしまうようだけど、後からファンになった僕には関係ない。単純にこの曲の軽さが好きだ。
 
僕はそろそろ50が見えてきて完全なる大人だけど、じゃあ本当にそうかと言われれば随分と心もとない。多分、僕がこの曲を好きなのはその心もとなさがうまく表現されているからだろう。難しい文句を重ねるわけでもなく、「壊れた気持ちで翼もないまま どこかに飛んでゆくのはどんな気がする」とシャウトし、「とてもイカしてるぜ」と結ぶ。とてもいい加減な曲だ。そこがすごくいい。
 
今気づいたが、’飛んで’と’どんな’で頭韻を踏んでいる。こういう跳ねた表現がそこかしこにあるのもこの曲の魅力だ。ていうかこのアルバムはずっとそんな感じだな。なんにしてもこの何気なさにはやられる。
 
80年代の佐野は外に向かっていた。特に『VISTORS』(1984年)以降はその傾向が強い。しかしこの『TIME OUT!』にはその気概が感じられない。時代背景もあってかバブルに浮かれた世相を冷ややかに見ている視点もあるけど、それもちょっと投げやり。らしくない。それどころか佐野自身のプライベートな声がここにある。
 
佐野は自身の喜怒哀楽を歌に表さない。滲ませているかもしれないが、基本的には’自分ではない誰かの視点’で曲を書いている。けれどこのアルバムでは佐野の生な声が聞こえてくる。もちろん自分ではない誰かのストーリーに仕立ててはいるけど、自虐的に面白おかしく内面を吐露させているように思える。そんなアルバムは現時点においても唯一この作品だけだ。『VISITORS』(1984年)、『Cafe Bohemia』(1986年)、『ナポレオン・フィッシュと泳ぐ日』(1989年)とそれ自身ダイナモのようにエネルギーを発する怒涛の作品群と来て、一気にトーン・ダウンの『TIME OUT!』。あの佐野元春にもこういう作品があるんだな。なんかこのアルバム、レアだぞ。
 
この頃は wowow でのアンプラグド・セッション『Good Bye Cruel World』(1991年)もあったりと、自身のバンド、ハートランドとの距離が更に濃くなっていく時期だ。海外を活動の拠点にしていた佐野が90年代に入ってからはハートランドとの時間を密に取っていく。1993年の『The Circle』を最後にザ・ハートランドは解散するのだけど、その頂きに向かって再スタートを切った時期と見ていい。
 
そのピークを迎えていく『The Circle』や『Sweet16』(1992年)での躍動するハートランドも素晴らしいが、この『TIME OUT!』での演奏も地味に目を見張るものがある。いや、ハートランドとTokyo Be-Bop のメンバー一人一人の顔が見えるという点で言えば、むしろこのアルバムかもしれない。完全なるザ・ハートランドお手製アルバム。 あぁ、『Good Bye Cruel World』も音源化してくれないかな。
 
それにしてもこの頃の佐野元春はキレキレだ。活動的にはトーンダウンした時期かもしれないけど、前作から1年しかインターバルがないように創作力は旺盛だ。言葉の妙と言い、その載せ方といい、AメロBメロサビ的なパターンを無視したメロディといいオリジナリティーに満ちている。これは完全に80年代の果敢なトライアルの成果だろう。逆に肩の力が抜けていい感じ。#10『ガンボ』での「あれ、片っぽの靴下がどこにもないだろう」のラインが最高過ぎる。
 
ところでこのアルバムをフォローしたツアーを収録したビデオがあって、6曲しか収録されてなかったんだけど、『クエスチョンズ』とかテンポアップした『愛のシステム』とか見事な佐野元春 With The Heartland ぶりを見ることが出来る。ビデオには収録されていないけど、Youtubeにはビートルズの『Revolution』のカバーがアップされていて、シャウトしまくりの異様にかっこいいこの時期の佐野の姿が捉えられている。 『Good Bye Cruel World』と合わせて、『TIME OUT!』ツアーの長尺パッケージ化も切に望むぞ!
 
随分と昔に佐野がこのアルバムを’ホーム・アルバム’と称していたけど、今改めて聴くとなんとなく分かる気がする。昔からのファンには重いアルバムのようだが、いやいや『VISITORS』~『ナポレオン~』期の方が断然重いでしょう(笑)。僕は純粋にこのアルバムを楽しめている。こりゃ後追いファンの特権だな。とはいえこの時の佐野は33才。とは思えない大人なアルバムだ。

タペストリー

ポエトリー:

「タペストリー」

しあわせ折れる
ふしあわせ 綴れおり
タペストリー 仕舞い込んで
しわは褪せ 踊る

瞼の上 大げさな太陽
染み込んでは 一度に吐き出す
ぐらいのまね してみるんだお前
吐かなかったろ ゆうべ

めぐり合わせ ていうものがこの世にあるなら
次第に遠ざかる太陽 次に現れるの
いつになるん
たるんだ瞼 一度に吐き出してみるんだ

間違っても 思い通りにならない
珍しい生き物飼って 
それで手痺れる

写実な実験を課す
生え際から もらい泣きする輩
もらいなさい
適度にもらいなさい

小細工や小癪な真似通して
うろ覚えの手、握る
徹頭徹尾 私たちが選んだ人生の荒縄
ほどく手指抗うほど伸びやかな
強く引き締めた手綱

マグネットコーティングされた機体を
白熱する有機体を
混ざれ 混ざるな
生ぬるいかんしゃく玉を
はじけ はじけるな

十年くらい前の気持ち ここに集めて
おかわりする気持ち たしなめてください
第一発見者になる能力 ささやかな憂鬱
位置情報で確かめてください

今はどこだか分からぬまま塞ぎ込んで
ふしあわせ 指折り数えました
タペストリー 全部折り
ミリ単位で
つなぎ留める

2021年4月

The Shadow I Remember / Cloud Nothings 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『The Shadow I Remember』(2021)Cloud Nothings
(ザ・シャドウ・アイ・リメンバー/クラウド・ナッシングス)
 
 
前作『The Black Hole Understands』(2020年)をYoutubeでタダで聴いたので、今回はちゃんとCDを買いました(笑)。日本盤にはボーナストラックが付いていて、#2『The Spirit Of』と#6『Open Rain』のデモトラックです。この2曲のデモはリモートで作られた前作とニュアンスが似ていて、ボーカルが大人しめ。前作を気に入っていた僕としては最初、本編よりも軽めのこっちの方が良かったりもしたんですけど、何回も聴いてるとやっぱ本編の荒々しい感じが好きになりました。そりゃ当然か。それにしても、、、日本盤をせっかく買ったのに対訳付いてないやんけ~。
 
キャリア20年の8枚目だそうです。名前は知ってたんですけど、ちゃんと聴いたのは前作が初めてでして、まぁビックリするぐらいキャッチーですね。基本荒々しいパンクなんですけど、曲がことのほかチャーミング。このギャップが彼らの魅力でしょうか。う~ん、クセになる。
 
僕は直近の2作しか聴いていないのでよく分かりませんが、多分今までもそうだったんでしょうね。だからその時々でサウンド的な変遷はあるのだろうけど、やっぱ売りはこの愛らしいメロディですよね。しかも今回は特に敢えて短い3分の中に長尺の曲のような変化をつけようと取り組んだみたいですから、尚更。ここがやっぱり彼らのストロング・ポイントなんだと思います。
 
それにしても、キャリア20年でこれだけ瑞々しいメロディを書け続けるのはちょっと異質な才能だ。ボーカルないとこのメロディも抜群で、しかも未だに早い曲ばっか。デビュー間もないみたいなナチュラルなざらつき。とうに初期衝動とは違うところで作曲をしているのだろうから、なにか秘訣があるのかもしれない。この技術、もっと注目されてもいいかも。
 
ソングライターのディラン・バルディなる人物、パッと見は垢ぬけない髯モジャ男だが、その中身は未だに瑞々しさを保ち続けているのか。やはり凄いギャップだ。