前夜

お話:

「前夜」

 

マグネット大王はなんでもくっつける
けれど大王が恋をしたのは竹の女王
くっつかないじゃない
どうしたら仲よくなれるかな

大王はじぃに尋ねました
どうすれば竹の女王と仲よくなれるかな
じぃは思案しました
「そういえば大王、村の奥の奥のずっと奥に土とともに暮らす一族がいるとか
 確か、、確か、、、
 そうじゃ、確か砂鉄と言っておりましたな」

大王は砂鉄をお城に招きました
「そ、その、、そのさっ、
 なんで君たちは砂なの?
 どうやったら土と暮らせるの?」
砂鉄は困りました
生まれてこのかた、ずっと土と暮らしているからです
「ま、あれじゃないの、毎晩お月さんにお願いしとけばなんとかなるんじゃないの!」
チャラいぞ!砂鉄!!

真に受けた大王は毎晩月に祈ります
毎晩毎晩祈ります
闇夜に浮かぶマグネット大王
その姿が夜空に溶けていく

噂は山の向こうの竹の女王の耳にも入りました
「ばぁ、あの噂知ってる?」
「あら、女王のお耳にお入り?」
「そのマックナゲット、、、じゃなくてマグネットさんは何をお祈りしているのかしら?」
「よくある話ですよ」
「よくある話って?」
「叶わぬ恋の話です」

大王は来る日も来る日も月に祈りました
一方女王のほうでも、竹の女王はいつもひとところにいるものですから
恋するあなたのもとへと流れ着きたいというロマンチックなお話に心が傾き始めています
「ねぇ、ばぁ
 大王が好きな人って誰かしら?
 虹のふもとのあの人かな、それとも湖の王女かな?」

大王は来る日も来る日も月に祈りました
けれど叶う気配は一向にありません
砂鉄になって女王のもとへ飛んでゆくなど夢のまた夢なのでしょうか

しかしその日は不意に訪れました
三日月が更に薄くなった月ごもりの夜、
焦がれて焦がれて焦がれ尽くして
とうとう大王は砂鉄になりました

その夜、大王はお城から姿を消しました
じぃはにっこり微笑みました
よく朝
山の向こうのまっすぐ伸びた若竹の根は赤く色づいたそうです

竹取の翁が竹やぶに入っていったのは
それから何年も経ってから
ひときわ輝く満月の夜だったそうです

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