POWERS/羊文学 感想レビュー

邦楽レビュー:
 
『POWERS』(2020)羊文学
 
 
メジャーでの初アルバムだそうで、その前に出たミニ・アルバムもなんとなく聴いていたんですけど、格段にスケール・アップしています。ドシッとした重量感というかがっしりとした手ごたえ、これで一気に売れて欲しいですね。
 
ドラム、ベース、ギター/ボーカルの3ピースなんですけど、頼んなさがない、音がキレてますよね。録音は3人だけだったのか他にミュージシャンが参加していたのかその辺りは気になりますけど、ドラム、ベース、ギター/ボーカルの顔がはっきりと見えるサウンドで、つまり確信を持って鳴らされてるってことなんだと思うんですけど、言ってみれば初期衝動ってやつですね。シンプルでありながらアイデアに溢れていて相当カッコイイです。全曲フェイドアウトじゃなく、ちゃんと演奏で終わるのも彼女たちの強い意志を感じます。
 
てことでバンド全体での記名性もばっちりなんですけど、このバンドの個性を一層際立たせているのは塩塚モエカのボーカルです。独特の浮遊感があって性別を超えちゃってるというか、ただそれも現実離れしているわけではなく、エモーショナルなサウンドを支えるにはこの声かなっていう、そういうリアルな力強さがあります。物事にリアリティを与えるには現実的なだけでは駄目で、一方で非現実的な部分、フィクションも必要で、そういう架空と現実を行き来できる強い声だと思います。
 
あと#2『Girls』での「コンクリート蹴った」の語尾を潔く言葉を切って歌うところがあるんですけど、ここ、ロックっぽくていいです。彼女の場合コーラスも含めどこまで行くんだいという高音ファルセットが魅力ではあるんですけど、「蹴ったっ!」みたいなロックっぽさがあれば尚のこと最高だなと。ここにウルフ・アリスのエリー・ロウゼルばりのシャウトが加われば最強ですね。
 
また彼女の発音ですけど、すごく母音を英語っぽく発音するんですね。’i’をイとエの間の中間音で発音したり、’a’をアとエの中間音で発音したり。例えば#『変身』のサビで歌う「大変身よ」の’だいへんしん’の部分なんか分かりやすいですよね。多分無意識なんじゃないかと思うんですけどこの辺りも独特でロック的なアタックに一役買ってます。
 
そういう意味でも非常にボーダレスな雰囲気がありますね。3人の佇まいもなんか性別云々という感じじゃないですし、日本のというよりユニバーサルな機軸に立っている気はします。このまま洋楽の中に混じっても違和感ないんじゃないですか。昨今アジアンなミュージシャンが世界レベルでブレイクしていますけど、その並びにいても全然不思議じゃない頼もしいバンドですね。
 
ちょっとボーカルへの言及が多くなりましたが、羊文学っていうぐらいだからリリックもいきなり「嘘つくな!」で始まる曲があったり、「きみは砂漠の真ん中 ユーモアじゃ雨はふらない」といったキラー・フレーズもあったりで、あんまりクドクドと書いてもアレなんでこのぐらいで止めておきますが(笑)、心に響く言葉が沢山あると思います。繰り返しますが、是非売れて欲しいですね。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)