林立

ポエトリー:

「林立」

 

軽く石畳に線を引いて
足を揃えた
林立する掌に白粉を塗った日
それでも新しく生まれてくるものに
何と応えよう

四つ角に
四季折々の自己嫌悪
あぁ手に負えない、けど秋には
飢えたポテト
チップスになってバリバリと

身近なものから順番に
月見の形に頬張って
だったらあなた、
翌朝早くに列車に乗ってお出掛けを

夕暮れの
ザクザクと拍を打つ落ち葉は
深呼吸の呼に窮して
二酸化炭素欠乏症
もうすぐ、ザアザアと夜がふる

洗い流す
夕立でもないのに何故?

音楽は
向こう側の
新緑の地域には行けなかった
音楽は
手すりを握れなかった

私たちは林立していた
お茶を沸かして立っていた

2020年9月

Folklore / Taylor Swift 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Folklore』(2020年)Taylor Swift
(フォークロア/テイラー・スウィフト)
 
 
なんでもステイホーム中にレーベルに内緒で制作したんだとか。プロデューサーはザ・ナショナルのアーロン・デスナーで17曲中11曲を手掛けている。テイラーさんは以前から一緒にやってみたいと思っていたらしく、けれどザ・ナショナルというとインディど真ん中の人なので、1曲ならまだしも通常だとレコード会社がうんとは言わない。そこで内緒で(しかもリモートで!)作ったそうです。
 
しかもアーロンさんはこれもUSインディのトップランナーであるボン・イヴェールに声をかけ、「exile」という曲で共演を果たしている。まさかテイラーさんのアルバムでジャスティン・ヴァーノンの声が聴けると思わなかった。とても新鮮な驚き。
 
以前から気になっていたとはいえ、このコロナ禍にあって アーロン・デスナーやボン・イヴェールと共演し、静謐で内証的なサウンドを選ぶというのはやっぱりテイラーさん自身に世を見る目の確かさというか、今何をすれば当たるかという、そういう下世話な話ではないのだろうけど、結果的に人々が求める作品をジャストに出してしまえるのは無意識的にせよ、やっぱり凄い人だなぁと思わざるを得ない。
 
肝心の曲の方は勿論ばっちりで、このところは派手な衣装に身を包んで、ポップなダンス・ナンバーを披露するといった印象が強くなった気がするけど、僕が最初にテイラーさんを知ったのはアコースティック・ギターを抱えて歌う「Fifteen」なので、基本はそっちの人なんだという気持ちの方が強い。案外そういうファンは多いのではないか。恐らくテイラーさんも自身のそういう地味だけど基本となるストロング・ポイントを理解していたはずで、けれどこれだけ巨大になると自分の思いだけでは済まない部分も多いわけで、そこをこの状況を逆手にとって密かに作家性の強い作品を出してしまうというのはなかなかしたたかというか、かっこええ話や。
 
アルバムはもう絶賛の嵐で、ここにきてテイラーさんのベストではないかとさえ言われている。卓越したソングライターである彼女があのアーロン・デスナーのサウンドで歌うのだから、間違いないに決まっている。彼女本来の持ち味であるメロディの良さが歌に注力したサウンドをバックに従え、初期の作品のように前に押し出されている。
 
ということでテイラーさんの曲がくっきりと浮かび上がってくるんだけど、思うのは盛り上げるのがすごく上手いなと。派手なサウンドではないんだけど、曲自体がそういう大波小波を内包しているから後半にかけて、特にブリッジでの盛り上がりが半端ない。「august」なんてすんごいです。どういうサウンドになろうがポップなところなところからは離れられない体なんでしょうか。てことで命名します。テイラーさん、あんたはブリッジの女王や。
 
プラス、今回はとりわけタイトルに『フォークロア』とあるように、’だれかの物語’にチャレンジしたということで、いつもの’わたしの話’ではない切り口のリリックも魅力。「the last great american dynasty」でのブルース・スプリングスティーンばりの遠い過去に思いを馳せたストーリー・テリングには思わず鳥肌が立ってしまった。過去の戦争から現在の医療従事者へと繋げる「epiphany」も素晴らしいし、ポップなところで言うと17歳の男の子になって歌う「betty」も面白い。けれどなんとなく物語にイントゥしていけないのは何故だろうか。
 
それはやっぱり’わたしの話’が完全に抜け切らないところで、例えば さっきの「the last great american dynasty」は凄くいいのに最後に「その家を私が買った」というリリックで締めくくっちゃうのはちょっとなぁと。あと「invisible strings」での「アメリカのシンガーに似てますね」と言われたってリリックもそれあんさんの話やないかと。巷で言われているほど’民間伝承’な歌ということではないような気もしますが、それも過去の作品と比べればということでしょうか。
 
ただやっぱりここは’だれかの物語’に徹底して欲しかったかな。そういう煌めきは随所にありますから。あぁ、「その家を私が買った」の一文さえなけりゃなー。
 
それと彼女はやっぱり声が強いですから、なかなか人の歌になり切れないというか、考えてみればまだ30才になったばかりということなので、そこをあんまり求めてもなってところはあります。僕がテイラーさんのアルバムを買うのは『フィアレス』以来、十数年ぶりなんですけど、更に10年経つとまたその辺も変わっているのかもしれません。 
 
僕にとっては新譜を追いかける人ではないですけど、これだけ巨大な人だと新譜が出りゃ自然と耳には入ってくるわけで、そういう中で今回のように「おっ、こりゃいいな」とまた手に取ってみる機会はこれからも案外あるのかもしれません
 
ところでテイラーさんがアーロン・デスナーに声をかけたときに、アーロンさんはボン・イヴェールとのユニットであるビッグ・レッド・マシンの新作に取り掛かっていたとか。ところがコロナ禍にあってそれが中断したところにテイラーさんから声がかかったらしいです。てことでビッグ・レッド・マシンとしての新作もあるかもですから、これも凄い楽しみです。

III

ポエトリー:

「III」

 

かなしみひかる星の空
まばたきひとつで落ちてくる
しずくを涙と取り替えて
あせふくしぐさも様になる

こよいだれかが郵便に
たくしたことばが川面に浮かび
ながれつくのはあの子の家の
はるかのきしたかなしみもうで

それとはしらずにぼんやりと
あのこは遠い求めに軽く応じて
かわらぬ声を手繰らせながら
はんどくらっぷ夜をつらぬく

よくあさひろがるかなしみが
なみ打ち際で行きつもどりつ
こころの糊代ズレはそのまま
なにもかわっちゃいないんです

とおい求めにゆられておきて
あちらこちらに変わらぬものが
みしらぬ誰かの招きに応え
けさはぐっすり休んでいます

こよいだれかが公園に
なくしたことばが川面にうかび
ながれつくのはあの子の家の
はんどくらっぷ手にやどる
それはわたしのそれともだれの

 

2020年8月

The Black Hole Understands/Cloud Nothings 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『The Black Hole Understands』(2020) Cloud Nothings
(ザ・ブラック・ホール・アンダースタンズ/クラウド・ナッシングス)
 
 
クラウド・ナッシングスというとハードなイメージがありました。ボーカルも声割れるぐらいシャウトするっていう。今回このアルバム、すごくいいいなぁと思って過去作も聴いてみたんですけど、やっぱそんな感じでしたね。
 
ところがこのアルバムはすごくポップなんですね。いや、今までも激しかったんですけど、曲はチャーミングだったようで、今回はアレンジも含めてポップっていうことで、だからすごく聴きやすいです。声割れてないし(笑)。ていうかどうしちゃったんだろうっていうぐらいソフトな歌声です。ただ相変わらずドラムはせわしないですな(笑)。ちなみにこのアルバムはリモートで作られたそうです。結果、元々持ってる彼らのメロディ・センスが前面にでてくるのが面白いですね。
 
そうそう思い出しました。過去作も普通に曲がいいからアルバム買おうかなって何度か視聴したことあったんですけどね、ただちょっとサウンドが好みじゃなかったっていう。でも今回はハードはハードなんですけどクラッシックなパンクっていうイメージで、クラッシュとかそんな感じ。ほらクラッシュも曲が抜群によくて細かいニュアンスちゃんと聴こえてくるでしょ。
 
あともっと古いところで言うと、ザ・バーズ。ああいうフォークロック的なニュアンスあります。3曲目の「An Average World」とかですね。我慢しきれなくなってかアウトロは激しくなりますけど(笑)。ずっと鳴り響くギターもいいですけど、丁寧にギター刻んでくるのがいいですね。
 
聴きやすいというところで言うと、ある意味邦楽ロックに通じるようなメロディっていうんですかね、起伏に富んでキャッチーなままいろいろ展開していくんです。洋楽に比べると邦楽はメロディのふり幅が大きいですから、割と馴染んできやすいと、そういう部分はあるかもしれません。ただ、このメロディ・センスはちょっとやそっとじゃ真似できませんね。
 
あと全体の構成が冒頭からアップテンポなのが続いて中盤は落ち着いたメロディ。インストもあって後半はまたテンポアップしていくっていう、まぁパターンと言えばそうなんですけどこれが見事にはまって、しかもトータル30分ちょいで、曲が抜群にいいですから、ホントに笑っちゃうぐらい全部いいんですけど、これはやっぱり最後まで集中して聴けます。もしかしたら傑作なのか?
 
ただ実はこのアルバム、サブスクでは聴けなくて毎月5ドル払うBandcampっていうサービスでしか聴けないそうです。すごくちゃんとしたサービスなんですけど海外もんなので僕は手を出せないでいますが、まぁ今回はYouTubeで聴けたっていう、ラッキーですね(笑)。ま、いつ聴けなくなるか分かりませんから、今のうちにしっかりと聴いておきたいなと。タダで聴こうなんざ不届きもんですな(笑)。
 
ちなみにBandcampでのこのアルバムの売り上げは25%が教育基金に寄付されるそうです。そしてこのアルバムではリモートでしたけど、続けて今度はみんなで集まって次のアルバムに取り掛かっているそうです。行動力のあるバンドなんだと思います。タダで聴いた報いに次はちゃんとお金払います(笑)。

グランド・ブダペスト・ホテル (2014年) 感想レビュー

フィルム・レビュー:
 

グランド・ブダペスト・ホテル (2014年) 感想レビュー

 

一人の女性が墓地を通り過ぎ、とある作家の胸像の前に立ち止まる。胸像にはいくつもの錠前が掛けられていて、女性も持参した錠前をそこに掛ける。彼女はベンチに腰かけ手にした本を開く。タイトルは「グランド・ブダペスト・ホテル」。そんな風にしてこの映画は始まります。

あらすじです。1930年代、さる東欧の国では由緒正しきホテルが人気を博していた。顧客は主にセレブリティ。特に年配のご婦人には絶大な人気を誇る。このホテルの人気を確たるものにしているのはコンシェルジュであるグスダヴ・H。そのおもてなしは微に入り細に入り、夜のおもてなしも辞さないというもの。ところが長年の顧客であるマダムに突然の訃報。彼女の遺産相続争いに巻き込まれたグスダヴは殺人容疑をかけられてしまう。

先ほど述べた冒頭のシーンに戻ります。本の裏表紙には作家の写真(※胸像の人ではない)。物語はその作家の回想でスタートします。若き日にグランド・ブダペスト・ホテルを訪れた時の記憶。そこで出会った深い孤独を刻んだ老紳士。その紳士は作家にかつて共に過ごした偉大なコンシェルジュ、グスダヴ・Hとグランド・ブダペスト・ホテルの物語を語り始める。

と、ここまでで、この映画は二重三重の入れ子構造になっていていることに気づく。ひとつ目が墓地の女性のシーンで、ふたつ目は彼女の本の中。みっつ目は更にその中の作家の回想で、よっつ目は作家の回想の中の老紳士の回想。というふうに物語は箱の中の中、またその中の中、といった具合に進んでいく。それはまるでおもちゃ箱のようで額縁の付いた紙芝居のよう。現に幕間が変わる毎にそれぞれのシーンを題したタイトルが画面いっぱいに表示される。

その映像は特徴的でウェス・アンダーソン監督は正面、真後ろ、若しくは真横からしか写さない。加えてシーン毎に統一したカラフルだけど淡い色使いは尚のこと紙芝居のような印象を与え、また登場するキャラクターはまるでスヌーピーのマンガのようにデフォルメされている。誰がどうという強いイメージ付けは控えられ、主役であろうが脇役であろうが同じトーンで語られる。ある意味平面的に、というか恐らく意図的に。有名俳優がバシバシ出てこれるのはそうしたトーン故、かな。そして全ての登場人物にどこかユーモア、どこか抜けているところがある、というのもチャーミングな点です。

映画はシュールでドタバタなブラック・コメディとして楽しめる。けれど特徴的なウェス・アンダーソン監督の映像美や不可思議さもあってファンタジーの要素も強くある。或いは追いつ追われつのクライム・ミステリーとして見る人もいるかもしれない。そのどれもが並列しているのは確かだが、やはり冒頭のシーンが気にかかる。

映画は「Inspired by the writings of STEFAN ZWEIG」という言葉で締めくくられます。シュテファン・ツヴァイクとは1930年代活躍したウィーンの作家だそうで、当時のウィーンはハンガリー・オーストリア帝国にありました。ユダヤ人への迫害もなく今で言う多様性が大いに認められた自由な雰囲気のその国家では文化的なサロンも充実し、シュテファン・ツヴァイクはそこでかのフロイトやカフカ、シュトラウスといった人々と交流を深めていったそうです。ツヴァイクは来るべき平和な世界をそこに見ていたのかもしれない

ところが時代はファシズムのが徐々に忍び寄るナチスが台頭してくる。やがてツヴァイクの祖国は完全に飲み込まれてしまう。そしてツヴァイクは自死を選んでしまう。絶望したのだろうか。

映画は基本的にはコミカルにテンポよく進んでいくがグロテスクな描写もあるのでご用心、ウェス・アンダーソン監督は要人物が最後にあっさりとああなってしまうことも含め、あの戦争のことを記憶させたかったのかもしれない。冒頭のシーンや「Inspired by the writings of STEFAN ZWEIG」という言葉は愛する作家、シュテファン・ツヴァイクを投影させ、自身の得意とする分野、得意とする手法であの戦争の時代を描くことではなかったか。

しかしそれはそれとして、絵本のように時折パラパラとページをめくり、或いは絵画のように部屋に飾って時折眺めたい、そんなチャーミングな作品であることは間違いない。まずはその世界に身をゆだねたい。

一筆書きの太陽

ポエトリー:

「一筆書きの太陽」

 

知らない人から埋もれていく
あれは
一筆書で書いた太陽

カラスは小躍り
自信なさげな僕はぐったりして
見知らぬ扉
ただぼんやりして開け放つ

短い夏
時間が惜しいから
タンスの奥から貯金を引き出した
溜まりに溜まった鬱を
振り込める先
一筆書の太陽

幼い時から騒いだりして
散らかしっぱなし
半透明に覆われた温もり
大事にしたいこだわり

更には言い逃れようと
アスファルトに立つ静かな熱気
夢中になって静かに荷ほどき
平らになった地面が余程気持ちいいのか
ひたすら横になっていたっけ

しばらくするとウサギの耳
ピンと立つように
ある日のこと思い出し
蛇腹になった未来を
出来るだけ目一杯
伸ばしてみた

それが唯一の自信
狭い報告に
一喜一憂するより
先頭切って走る短い夏
それが暴れ回る前に
そっと肩を叩き
そら、あれが太陽ですよと
よせばいいのにその気になって
軽く一筆書きする真似をする

濡れ落ちる太陽
踏みしめる唯一の自信
それがあればよかった

 

2020年8月