Month: 8月 2020
歌は世につれ世は歌につれ
目指した
ポエトリー:
「目指した」
君が目指したのは嘘
僕は言うがまま
戦いになったりはしない
間違っても
文字通り
嘘みたいに
急拵えの意味
言ったそばから
失せていく
そうやって生まれていく(意味)
昨日とか今日とか明日とか
本物と見まごうばかりの(本能)
でも
信じてはいけないからね
そうやって
今日もまた
なくすことを目指す
磨いても
磨いても
一向に綺麗にならないものなら
いっそなくしてまえばいいと気づいた
それからは
間違っても
薄汚れたりはしないから
君は
今日も硝子戸を開けて
嘘っぱちでなんにもない朝
本物と見まごうばかりのそれを
軽く吸い込んで西の空
太陽のない方を選んだ
正しさを争う前に
2020年7月
Woman In Music Pt.III / Haim 感想レビュー
洋楽レビュー:
「Woman In Music Pt.III 」 (2020年) Haim
(ウーマン・イン・ミュージック Pt.III / ハイム)
ハイム三姉妹、安定の三作目。とはいえ前作から三年のインターバルだから、本人たちにとっては安定なんて生易しいものではなかったのだろう。けれどここで第一期というか彼女たちの音楽が一息ついた感じはする。
僕はハイムの言語感覚が好きだ。独特のリズムに乗せて畳み掛けていくリリック、今回で言うと「I Know Alone」とか「Now I ´m In It」なんてすごく分かりやすいハイム節。こういうのを聴くと思わずにやけてしまう。歌詞の中身はヘビーなんだけどね。
てことでハイムはデビューの時からもうソングライティングは完成されている。それぞれが曲を書けてボーカルを取れて色々な楽器を演奏できる中、それぞれに特徴はあって、でも姉妹だからやっぱり同じ方向に顔が向く。この阿吽の呼吸感とさっき言ったリズム感がハイム最大のオリジナリティー。
だから後はどう肉付けしていくかということ。そこを担うのがアリエル・リヒトシェイドとロスタム・バトマングリで、もうこのコラボは五人でハイムと言っていいぐらい親密なもの。だからちょっとヴァンパイア・ウィークエンドぽい、というか昨年の『Father of The Bride』の流れを感じてしまうところも所々。次女のダニエルも参加してたしね。
思えばハイムの1stからは随分と洗練されてきました。バックに流れるちょっとしたサウンドは流石アリエルにロスタムで超何気なく超オシャレ。今回はラッパの音が印象的かな。そして時おり前に出てくるダニエルのギター・ソロ。そうそう今回はフィーチャリング彼女のギターってところもあってこれが物凄くカッコいい。いかにもなマッチョなギターじゃなくて自然体で鳴らされるダニエルのギターも本作の聴きどころ。
そうそうここ数年、#MeTooとかジェンダーに関する動きが活発でしょ?彼女たちはやっぱし三姉妹ロッカーですから、色々とね、デビュー以来やな事はあったみたいです。でそのことを自分たちの日常に即して表現している。例えば「The Steps」では「私は自分のお金を稼ぐために毎朝起きてる」、「同じベッドで一緒に寝てるからってあなたの助けは要らないわ」、「そこんとこ、ちゃんと分かってる?分かってないでしょベイビー」って。
同時期にリリースされたフィオナ・アップルの『Fetch The Bolt Cutters』があちこちで絶賛されてますけど、あっちが誰が聴いても分かる化け物みたいな作品だとすれば、こっちの『Woman In Music Pt.III』は誰が聴いても革新性を感じないと思うんです。でも僕はフィオナに負けないぐらいこの作品が好きです。何故ならここにも彼女たちのリアルがあるから。
彼女たちは声高に叫ばない。でもいつも変わらないトーンで身の回りの大事なことを歌っている。個人的なことを歌うことが世界を歌うことになる。誰かがそんな事を言っていたけど、それは一番難しいこと。彼女たちの歌には彼女たちの顔がちゃんと見えて、その向こうに世界が写っている。ごく自然体でこういうことが出来るのがハイムの凄みではないでしょうか。
このアルバムでは特に「Gasoline」と「Summer Girl」が好きです。ちょっと気が早いけど、次のアルバムではアリエルとロスタムには少し控えてもらって、三姉妹だけで作ったアルバムを聴きたいな。三姉妹で作ったミニマルな歌を通して聴こえる世界の声を感じ取りたい。
全国紙に派手なヘッドラインを出していくということではなく、言ってみれば地方紙というか、けれどその方がかえって真実を照らし出しているという側面もある。そしてそれはとても大切なこと。僕にとってハイムはそんなイメージです。
無理なお願い
ポエトリー:
「無理なお願い」
着ている服の一枚一枚を
あの人にもあげ
この人にもあげ
密やかに塗り替えられた夜は
地を這うようにして
辺りの景色を一変させた
投げ出してしまわぬように
あの人の面影を
そっとタオルに染み込ませ
道行く人、一人一人に
あなたではなかったですか?
あなたではなかったですか?
と問いかける
風ゆらめく草木によろめいて
僅かに背中に出来た指紋こそ
これはわたしのものですと
色付いた頬
きよつけの姿勢も曖昧な
あの人の姿勢が
中空に伸びたまま
空になるよすがを
黙っては見ておれぬ身体
最後の溜め息が流れる数秒間
全体がまろみを帯びるまで
わたしはじっとして
南中する太陽の真下
それは
遠いビルディングの影が
膝元に落ちるまでの
時間との戦い
狭まる肩幅への
無理なお願い
2019年5月
つむじ風
ポエトリー:
「つむじ風」
ひとりぼっちの君
風に吠えてる日々
性懲りもない君
月が吠えてる日々
声かけてきたあの子
振り返る君
つむじ風みたいに
二人は出会った
ツバメが弧を描く
君は街を急ぐ
前のめりにならないように
見透かされないように
声かける君
階段の中程
斜めになりながら
戸惑いながら
心ならずもいっぱい
ちぐはぐになる心
浮草みたいに
行き交う人波に
頭の中はいっぱい
千切れ雲でいっぱい
息を吸って目一杯
目の前も揺れる
自転車乗って行こう
抜け道ぬって行こう
君の前ゆくあの子
おもしろくない君
時間がないよ一体
どうすればいい?
二人静かに肩寄せながら
膝から崩れる
明日からは絶対
頭ごなしにいっぱい
春の営みみたいに
光が降りてくる
数え切れない失敗
爪を噛んでた日々
放り投げてしまう
嫌になってしまう
ひとりぼっちの君
見つけたのは宝物きっと忘れない…
二人でいれば絶対
夜も昼にすり変わる
忘れないよな日々
とりとめのない意味
頭の中はいっぱい
千切れ雲でいっぱい
息を吸って目一杯
つむじ風に揺れる