『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』 第32回「独裁者」 感想

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『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』 第32回「独裁者」 感想

 

とその前に前回の第31回「トップ・オブ・ザ・ワールド」についてひと言。ロサンジェルス・オリンピック編ではサイドストーリーとして日系人や人種差別のエピソードも盛り込まれていました。前回の最後に虐げられてきた日系人が歓喜の声を挙げる場面があるのですが、彼らは口々に「アイ アム ジャパニーズアメリカン!」と叫びます。

このジャパニーズアメリカンというのが良かったですね。日本人ではなくジャパニーズアメリカン。よく聞き取れませんでしたが日系人でない人も「~アメリカン!」と叫んでました。彼彼女らのアイデンティティーはそこなんです。

今移民の話題が時折出てきますし、日本にもこれから多くの移民がやってくる訳ですが、そうした問題を日系人として、我々と繋がる世界史へと引き寄せて物語る手法は粋だなと思いましたし、ロサンジェルス・オリンピック編のクライマックスを大活躍をした日本選手団ではなく、それまでのサイドストーリーであった移民の人々で終わらせるところもお見事でした。

さて、第32回「独裁者」です。大活躍をしたロサンジェルス・オリンピックから帰国した日本代表の面々。賛辞の声を浴びる中、東京オリンピックを日本に招致しようとした発起人の東京、永田市長が200メートル女子平泳ぎで銀メダルを獲得した前畑秀子に対し、「なぜ金メダルではなかったか」と心無い言葉を吐いてしまいます。その場に偶然通りがかった我らがカッパのまーちゃんはそんな永田市長に対し怒りの言葉を発するも、まーちゃん以上にブチ切れたのが2代目体協会長の岸清一。

岸は当初、大言壮語な嘉納治五郎を冷ややかに見るどちらかというとスポーツに多くを期待しない事務方として登場しますが、回を及ぶ毎にスポーツの力に魅せられ今や嘉納のよき理解者として日本スポーツ界を牽引しています。今回は岸清一にスポットが当たった回でもありました。

そんな岸を演じるのが岩松了さん。実物とそっくりです(笑)。『いだてん』の魅力の一つは個性豊かな俳優陣。テレビドラマというのはどうしても出演者が限られてくるというか、既に見知った方に占められてしまうケースが多いんですね。最近は俳優もバラエティー番組によく出ますから、どうしても登場人物の誰それ、ではなくその俳優としか見えなくなってしまう。なので僕としてはあまりテレビドラマには入り込めないのですが、『いだてん』の場合は先ず第一部の主役からしてよく知りませんでしたからね(笑)。

そりゃ中村勘九郎って名前ぐらいは知ってますけど、実際はどんな役者かはよく知らない。出演者の多くも脚本がクドカンですからそっち方面の方が沢山いて、僕はあまり演劇界に詳しくないから見ているだけで新鮮で登場人物を先入観なしに見れるんです。これはやっぱり大きいです。最近はもう『いだてん』の世界に入り込んで、あの役所広司でさえ嘉納治五郎にしか見えなくなってきました(笑)。

ところで我らがカッパのまーちゃんもここに来て大分変ってきました。当初は「勝たなきゃどうする?」、「参加することに意味がある?ないない、そんなもん」という立場でしたが、ロサンジェルス・オリンピックを経由して随分と考えが変わったようです。ていうか、もともと本音はそこにあったんでしょうか。

面白いのはそうしてまーちゃんがスポーツは楽しむもんだよと、いつの間にか嘉納治五郎化していくのに対し、最初はスポーツに冷ややかだった世間が少しづつ勝利至上主義になっていくところですね。つまりまーちゃんは一歩も二歩も先を走ってるんです。夢中になればなるほど先に行く。まさしく「いだてん」。当然、嘉納治五郎しかりです。

今回のクライマックスは東京オリンピック招致が困難な中、これからどうすべきかを体協で話し合っている場面。「お前の意見はないのか」と振られたまーちゃんがまくしたてる場面です。一部を書き起こします。

「誰の為のオリンピックかって話じゃんねー。ムッソリーニもヒトラーもいないんだから日本には。嘉納治五郎はいるけどね」

「何期待してんの?オリンピックに。ただのお祭りですよ。走って泳いで騒いでそれでおしまい。平和だよねー。政治がどうの軍がどうの国がどうの。違う違う違うっ、簡単に考えましょうよ。ローマには勝てない。じゃあどうします?戦わず勝つ嘉納さん」

そーいうことです。「誰の為のオリンピックか」。見事な発言だと思いました。

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