変なリセットに対する違和感 補足

その他雑感:

 

『変なリセットに対する違和感』補足

先にアップした『変なリセットに対する違和感』について。言葉足らずだったので、ちょっと補足を。

僕がこの言葉に違和感を抱くのは、一つにはそこに同調圧を感じてしまうから。なんかオリンピックについての後ろ向きなことを言う空気を抑えつける作用を感じてしまうから。ちょっと待ってよ、おかしいことまだ解決してないでしょって言うと、お前今はそういうことじゃなくて、国を挙げてよいものにするために皆で協力すべき時だろ?みたいな。

もう一つはそれでほくそ笑んでいる人がいるんじゃないかってこと。勿論この言葉を発する人の多くは、純粋に「やると決まったからにはよりよいものにしましょう」ってことで言っているのだとは思いますし、そりゃあ僕もそう思いますが、一方でそういう空気を実に巧みに利用する連中がいる、ほらほら時間が経てばいつものように皆忘れるからって密かに逃げ切ってしまう連中がいる、だから僕たちは「オリンピックを良いものにしましょう」と言う一方で、それはそれとして、おかしな問題はまだまだ解決されていないでしょ、それおかしんじゃないかってのは言い続けるべきなのではないか、でもそっちの言葉が今全く聞こえてこない事に嫌な感じがするのです。

何気ない「やると決まったからには一致団結してやりましょう」と言う言葉で、そのことが少しずつ少しずつ塗り固められていくような違和感。それを『変なリセットに対する違和感』と言ったのです。

変なリセットに対する違和感

その他雑感:

ニュースウォッチ9を観ていたら、スポーツコーナーで来るべき東京オリンピックについて、サンドウィッチマンがこんなようなことを言っていた。
「最初は東北の復興が遅れるからどうなんだろうって思っていたが、やると決まったからには一致団結してやりましょうと」
これ、わりと聞く言葉ではないでしょうか。

やると決まったからには皆で協力し合って、いいものを作り上げましょう。一見前向きな良い言葉に見えるけど、本当にそうなの?動き出した大きな流れは良しとしなきゃいけないの?

コンパクトな五輪のはずがそうじゃなくなったり、東京に人手が集中してしまったり、誘致にはお金が動いてたんじゃないかとか、オリンピックの後どうすんだとか、いろいろあったけど、やると決まった以上は一致団結してやりましょうってなんか変。やると決まっていてもおかしなことはおかしなままのはず。

勿論、サンドウィッチマンにしても実際に多くの復興に尽力していて、僕よりも沢山考えて、沢山行動している。それなのにお前なに偉そうなこと言ってんだと言われるかもしれませんが、でもやっぱりおかしなことには、それおかしいよって言い続けるべきではないでしょうか。

せっかく決まったんだからとか。何にしてもやることはやるんだからとか。そういう変なリセットの仕方はちょっと方向が違うんじゃないかと僕は思います。

吉村芳生 超絶技巧を超えて 感想

『吉村芳生 超絶技巧を超えて』美術館「えき」KYOTO 2019年6月2日

結局、最後まで吉村さんはなんで描いてるのか分からなかった。当たり前だけど。吉村さんは実物を見て描くのではなく、わざわざ写真に撮ったものを描く。自分というものを放っぽって数学的に、機械的に描く。だから吉村さんの意図とか感情が見えないのはそれでいい。多分。

吉村さんは自画像を描く。新聞紙上に描く。ある年には365枚描いた。パリ留学の時にはパリに居るのに部屋に籠ってパリの新聞紙に自画像だけを描き続けた。展覧会ではその自画像の山が辺り一面に貼り出され、たくさん居る吉村さんに僕たちは囲まれる。吉村さんの居ないところで一人ぼっちの吉村さんが描いたたくさんの自画像にたくさんの人々が感嘆の声を上げる。ここでは一人ではなくたくさんの人々に囲まれる吉村さん。なんか意味分からない。

毎日の新聞紙面。その日の一面に掲載されたその日一番のニュースを背景に描かれた自画像。つまり吉村さんのインスタグラム。今たくさんの人々が`いいね´を押す矛盾。自分というものを放っぽって描くことに執念を燃やしたクセに自画像ばかりを描く矛盾。本当に分からない。

吉村さんが次に選んだのは色鉛筆による表現。ん?表現?吉村さんが表現したかったのかはさておき、観ている人々は一様に驚きの声。わぁ!写真みたい!でもどうかな。写真とは違う。

変な違和感。素直に写真とは言えない得も言われなさ。吉村さんも感じていたのか色鉛筆画には色々な試行錯誤の後が見える。なんか違うなー、なんか違うなーって。鉛筆画の変態としか言えないような細かな作業に比べればやはり物足りなかったのでしょうか。わざわざ写真みたいに描いた色鉛筆画にダメージを付けるなんて。やっぱり吉村さんは変態です。

表現するというよりむしろ。ある一定の作業量があって、作業がある一定量まで来ないと気持ちが落ち着かない、描いた気にならない感じ。そこにある程度の労働が組み込まれていないと満足出来なかったのでしょうか。

結局、最後まで吉村さんは何をしたかったのか、何を描きたかったのか分からず仕舞い。それはつまり吉村さんのミッションが完遂された証。元々そんなもの分かるべくもないけれど、いつも分かったような気になる僕たちを横目に、そんなものは鼻からないんだとか、そういう表情すら見せない吉村さん。吉村さんは何て言われるのが一番嬉しかったんですか?

 

という感想をその日の内に書いて、今なんとはなしにスマホの写真を見ると、展覧会の出口で撮った、壁に書かれていた吉村さんの言葉がありました。

「退屈だとして切り捨てられる日常のひとこまから、非日常な新鮮味を発掘してみせる。それが芸術の力でしょう。一輪の花に、それを見いだしたいんです」

僕がその日のうちに書いた感想は、これらの言葉に打たれ、成す術もなく崩れ去っていきました。分かったような愚かな感想ではありますが、その日のうちに書いたそれも事実ですから、それはそれとして、赤っ恥を承知でそのままにしておきます。

Big Whiskey & The GrooGrux King/Dave Matthews Band 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Big Whiskey & The GrooGrux King』(2009)Dave Matthews Band
(ビッグ・ウィスキー・アンド・ザ・グルーグラックス・キング/デイヴ・マシューズ・バンド)

 

たまに海外では大層な人気なのに日本ではからきし認知されていないバンドがいるが、デイヴ・マシューズ・バンドはその最たるもの。確か何年か前にライブ動員数だったかライブ収益だったかの年間世界一になったと思うが、日本じゃほとんど知られていない。昨年出たアルバムが7作連続の全米№1になったそうだが、それでも日本じゃほとんど知られていない。加えて日本の主要音楽誌にもほぼ載らないという不思議なバンドです。

ちょこっと紹介すると、デイヴ・マシューズ・バンドというのは南アフリカ出身のデイヴ・マシューズがバーテンとして働いていたジャズ・バーの出演メンバーに声を掛け結成したバンド。ドラム、ベース、ギターにサックスとバイオリンという一風変わった編成で、白人2名と黒人3名という構成も大きな特徴かもしれない。

兎に角演奏が上手い!半端なく上手い!ライブでは1曲が10分近くなることもしばしばで、所謂ジャム・バンドと言えるのかもしれないが、根がサービス精神旺盛なバンドなので疲れません。楽しいです。そんな彼らの近年の代表作がこれ。『Big Whiskey & The GrooGrux King』です。

1曲目の「Grux」はサックスによる短いインスト。ま、イントロですな。そのサックスを担当しているのはリロイ・ムーア。残念ながら、バンドとして7作目にあたるこのアルバムがリロイ・ムーアの遺作となってしまいます。交通事故に遭われたんですね。リロイ・ムーアの愛称が GrooGrux King ということですから、このアルバムの名は彼に捧げられたもの、という風に解釈できます。

厳かなサックスで始まる導入部から2曲目の「Shake Me Like a Monkey」は一気にテンションMAX!!これ聴いて何とも思わない人はいるんでしょうかっていうくらいなファンキー・ダイナマイト・ナンバー。もう、すんごいです。どこがどうっていちいち挙げてたらキリないぐらい聴きどころ満載というか、でもそうもいかないんで、一応挙げときます。

先ずボーカルに注目してみよう。デイヴさんはギターも超絶に上手いんですが、歌もめちゃくちゃ上手い!しかも技が豊富!裏声だったりがなり声だったり、スキャットも多用しますし、キン肉マングレートかっていうぐらいの技を持ってます。で言葉の乗せ方が独特なんですね。ラップのように早口でまくしたてる時もあれば大股に舵を切ったりと縦横無尽。いやこの曲だけじゃないんですが、デイヴさんのボーカルに集中して聴いてみるのもいいと思います。なんじゃこれ!?とたまげることうけあいです。

あとこの曲で注目したいのはドラムです。カーター・ビューフォードと言う人です。この人のドラムもすんごいです。いわゆるロックなドラムではないし、手数がやたら多い早叩きでもないんですが、踊っちゃってるんです、ドラムが。さっきボーカルがラップっぽい時があると言いましたが、ドラムもそうかもしれないですね。ドラムがラップしてるというか跳ねちゃってるんです。この独特のリズム感というか叩きっぷりは癖になりますね。ホント独特。特に最後の畳み掛けるドラム捌きは何回聴いてもシビれます!

次の「Funny the Way It Is」からは落ち着いた曲が続きますが、このアルバムの山場は後半です。これぞデイヴ・マシューズ・バンドとでも言うような凄まじい熱量を発するのは後半です。特に素晴らしいのが「Squirm」。もうロック・オペラですね。デイヴさんが囁くように歌って静かに始まりますが、その時点で既に不穏な空気満載。サビは得意のがなり声。2番を過ぎたあたりから、大きく耳に飛び込んでくるのはストリングス。まるでドラキュラ伯爵でも登場したかのような危機感煽るアレンジ。ギャー!おそろしやー!って感じです。

もうね、ストリングスがうねるんです。まぁロックにストリングスはありがちっちゃあありがちなんですけど、こういう使い方は聴いたことないですね。それに伴い他の楽器も上や下やらあちこちから雪崩れ込んできてカオスです。もう無茶苦茶です。カオスです。でもカオティックなロック・パノラマが最高にカッコいい。で最後はなにやらアラビアンな楽器で終わるという最後までカオス。

その後、「Alligator Pie」、「Seven」、「Time Bomb」と続きますが、もう全部転調してます。メロディ途中で変わります。もう上手すぎ!それでもちゃんとそれぞれに違った色がありますから聴いてて面白いんですね。だから熱量はハンパないけど疲れない。強弱があって楽しいメロディがいっぱいだから聴いてて飽きないんです。

デイヴ・マシューズ・バンド。聴いたことある人少ないと思いますけど、聴けばちょっとびっくらこくと思います。一応の形あるじゃないですか。ドラムはこんな感じで、ギターリフはこんな感じでっていうロックの形が。もうそういうの、全部ひっくりかえさります。ドラムで言えば一回もそういう風に叩かないです。ずっと変則プレイです。もうこの人達は変態ですね。

その変態たちが最高にスパークしてる代表作がこの『『Big Whiskey & The GrooGrux King』。あ、最後の「You & Me」は普通にメロウなラブ・ソングです。こういう素敵な曲を最後に持ってくるところなんか完全に確信犯ですね。

 

Tracklist:
1. Grux
2. Shake Me Like a Monkey
3. Funny the Way It Is
4. Lying in the Hands of God
5. Why I Am
6. Dive In
7. Spaceman
8. Squirm
9. Alligator Pie
10. Seven
11. Time Bomb
12. Baby Blue
13. You & Me