洋楽レビュー:
『Amnesiac』(2001)Radiohead
(アムニージアック/レディオヘッド)
今こうやって聴いてみると、さして違和感はない。メロディアスな曲が多いからだろうか。生の楽器がちゃんと聴こえるからだろうか。恐らくもう、2019年に至って、トム・ヨークのブルースに僕たちが追い付いたからだろう。憂いに満ちた世界がデフォルトとして横たわっている。当たり前のこととして暮らしている。そういうことかもしれない。
ブルース。エレクトロニカだったり、ジャズであったり、ストリングスであったり、音の背景は色々あるだろうが、これはもうトム・ヨークのブルースだ。ここに『KID A』の攻撃性はない。ただ地を這って横に広がってゆくのみ。トム・ヨークが憂いている。そういうアルバムだ。
だからはっきり言って、アルバム全体の印象は散漫な感じは否めない。どれもが独立して立っていて全体としてのバランスは考えてられないようだ。それはこのアルバムの背景、あの『KID A』からこぼれ落ちたもの、と考えれば合点がいく。しかし何事もつまり、こぼれ落ちたものにこそ大切なものはあるのだ。
僕はこのアルバムを聴いて嫌な感じはしない(←この表現もおかしな話だが)。ていうか心地よい。アルバム・ジャケットが物語るように『KID A』で剥かれた牙はここにはない。それになんだかんだ言って、トム・ヨークはポップな人だ。でないとあんな服装はしない。
『KID A』~『Amnesiac』期というのはテンションが振り切ったまんまのかなりのストレス状態で作られたわけだが、そうは言っても常に中指を立てていたわけではないだろう。時に憂いが吐き出されることがある。そうやって吐き出されたブルースが綺麗なメロディや豊かな音楽性によって語られる。
たまには地を這うのも悪くない。そうやって僕たちは日々のブルースをやり過ごす。
Tracklist:
1. Packt Like Sardines In A Crushd Tin Box
2. Pyramid Song
3. Pulk/Pull Revolving Doors
4. You And Whose Army?
5. I Might Be Wrong
6. Knives Out
7. Morning Bell/Amnesiac
8. Dollars & Cents
9. Hunting Bears
10. Like Spinning Plates
11. Life In a Glasshouse