ポエトリー:
「白い壁に蚊を一匹」
この年になってしたことと言えば
白い壁に蚊を一匹、殺しただけで
始まりとも気づかぬまま歩いた人生を
人生とは気づかずに通りすがる旅人を
声にかける
気にかける
あの子の夕べを
冷めたスープに乗っかって
全部平らにする旅に出る度に
思いのほか外爽やかな風吹き
吹きっさらしの挨拶に触れる
さっきまでそこにいたわたくしの
貴方はわたくしの宝物になるべきですと
きっとそのように言ったはずですが
路傍に寝そべり
出鱈目に並ぶ形を指でなぞりながら
いっそのこと似せてしまえばいいのです
誰かの声形に同調して
一歩でも二歩でも進んで行けばいいのです
それを邪魔とは言わずに
後悔にはならなかったと
後で振り返った時に
その時さえ
あなたと一緒ならいいのですけど
今、血の匂いがツーンとしましたし
いずれ私たちもサヨナラでしょうか
2019年3月