映画『金子文子と朴烈』 感想レビュー その②

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映画『金子文子と朴烈』 (2019年) 感想レビュー その②

 

この映画、韓国では200万人を超えるヒット作となったそうだけど、韓国でもこの二人については映画が公開されるまで、余り知られていなかったようだ。ちなみに原題は『朴烈』。で日本公開時のタイトルは『金子文子と朴烈』。なんか面白い。

でもインパクトとしては断然、金子文子でしょう。チェ・ヒソ演じる金子文子が強烈です。映画を観た後に知りたいことだらけだったので色々調べてたら、実際の金子文子という人は映画が誇張でも何でもなく本当にドエライ人だということが分かってきました。

映画でも獄中で自伝を書く場面があるのですが、それが実際に出版されて今も残っています。その内容を一部読んでいると凄いのなんのって。強烈に天皇を批判してはいますが、今現在の世で考えれば本当に真っ当な至極当然のことを述べていて、しかもそれが非常に分かりやすく理路整然と述べられている。そして私はこの考えをあなたに押し付けたりはしない。私は私の仕事をするだけだ、みたいなことを言うわけです。こんな自立した女性が大正期の日本にいたとは。しかも義務教育すらまともに受けさせてもらえなかった20才そこそこの女性が書いたっていうんですから驚きです。

映画の中の彼女はキレキレです。尋問で「朴烈に天皇制の矛盾を教えたのは私だ」と啖呵を切るとことか、同居するにあたって文子が朴に提案した誓いがまた、「二人は同志である」とか、「活動の場では金子文子が女性であることを考慮しない」とかもう痛快過ぎます。

日本はとかく男性社会で昨年の#metooだって日本は一人蚊帳の外みたいな感じで、ところが今から100年近くも前の日本にこんな自立した女性がいたってことは本当に驚きで、韓国で200万人以上が観たっていうのもそういう金子文子自身の国籍を越えた魅力があったればこそなのではないでしょうか。

勿論、朴烈も強烈なんですが、その彼を導いているのは金子文子なんじゃないかって思うぐらい、怒られるかもしれないけど、なんかオノ・ヨーコとジョン・レノンみたいな関係に見えてきました。そして金子文子を支持する韓国人がこんなにも多くいることに嬉しい気持ちを持つと共に、これが逆だったら。今、日本は自国を褒めそやすことに熱心だから難しいかもしれない、そんな風にも思ってしまいました。

ちなみにこの映画は冒頭に「実在の人物による実際の話です」みたいな字幕が出てくるけど、本当に本当のことのようです。彼らは尋問を受けていますから、実際の調書も残っているし、裁判の記録もちゃんと残っている。最初の裁判で朴烈が朝鮮の官服を着て登場するのも、金子文子がそれに合わせチマ・チョゴリ姿で入場したことも事実で、彼らの尋問でのやりとりやセリフもほぼそのままだそうです。

ところで。僕たち日本人は韓国を含めアジアの他の国を下に見ている節がある。それは言い過ぎにしても弟ぐらいには思っているんじゃないだろうか。文化にしても科学技術にしても政治にしても日本の方がイケてるんだと。でもそれは間違いなく妄想です。少なくともこの映画は難しい題材をどちらかの国に肩入れすることなく丁寧な取材をして見事に俯瞰で描いている。情緒的ではなく、落ち着いたトーンで作り上げている。それはほぼ全編に渡って韓国人俳優が話す見事な日本語からもよく分かることだ。

日本の報道の自由度は180か国中67位だそうだ。韓国も43位とそれほど高くないが、果たして日本にこれだけの映画が作れるだろうか。少し心配になってきた。

最後に少し説教臭いことを言うと、この映画は100年前の不幸な時代を描いた映画ではなく、今に繋がる話だと思います。現代も富めるものが益々富み、貧しいものが益々貧しくなる。表立って現れてこないがそんな時代でもあると言えるのではないでしょうか。僕の友人に小学校の教師をしている人物がいますが、彼からも非常に厳しい家庭環境にいる子供たちの話を聞く機会があります。そういう普段生活している中では見えない部分に思いを巡らせる、そういう機会を与えてくれる映画でもあるような気がします。

ちなみに僕はシネマート心斎橋で観ました。観に行った回はほぼ満員だったけど年配の方が多くを占めていました。けど若い人にぜひ観てもらいたい映画です。少なくともこの映画は、かつての僕には無かった新しいものの見方をもたらしました。

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