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Eテレ 日曜美術館「奄美の森に抱かれて~日本画家 田中一村~」 2018.12.30再放送 感想
毎週録画している番組が幾つかあって、なるべくその週中に観ようと思うんだけど、なんだかんだと観ることが出来ずに録画がどんどん増えていくというのは録画あるある。
Eテレの日曜美術館もそのひとつでついつい観るのが先になってしまう。ということで昨年末に放送していた「日本画家 田中一村(いっそん)」の回も先日やっと観たばかりで、この人のことは知らなかったんだけど、とても素晴らしい画家だということを知って、なんだもう少し早く観ておけば良かったなどと今さらながら思った次第ですが、なんでもこの回は昨年7月の再放送だということで、多分その時はタイトルだけを見てなんとなく削除してしまったんだろうな。こういうのも録画あるあるです(笑)。
田中一村という人は明治41年の生まれで、彫刻家だった父親の薫陶を得、幼い頃から絵を描いていたそうで、一村8歳の頃の水墨画が番組でも紹介されていましたが、子供が描いたとは思えない素晴らしい水墨画。当時は神童なんて呼ばれていたそうです。
長じて、東京美術学校(現東京芸大)へ入学するものの、当時は南画と呼ばれる水墨画は衰退の一途を辿っていたそうで誰も教えてくれる人がいない。加えて家庭の事情もあって退学し、そこからは誰の師事も仰がずに独学で日本画を学んでいったということです。独学と言っても物心両面で支えてくれる支援者もいたり、晩年に奄美大島で生活をする際には地元の人に随分助けられたようで、一村の経歴を見てみると、芸術一辺倒の激烈な性格であったと思われますが、実際は人懐っこく社会性に富んだ人ではなかったかと思います。
とかく日本画というと淡い色調の大らかな絵を想像しますが、一村の日本画は非常に色彩豊かで躍動的。色彩感覚や構図はアンリ・ルソーを思わせますが、ルソーの売りがいわゆる「素人っぽさ」だったのに対し、一村は技術的にも優れていますから非常にリアルです。構図としてはルソー同様ファンタジーの要素もあるのですが、一村は実際にある景色を描いているし、しかも写実的で色鮮やかですから圧倒的に生命力があるわけです。
一村は自分なりの日本画を求める中、旅で九州を訪れます。その時に魅せられた南国の自然の豊かさが後の奄美大島での生活に繋がっていくようですが、結果的には独自で絵を研鑽し誰にも学ばなかった一村の一番の師は南国の自然だったのかもしれません。
一村の経歴をネットで調べてみると、彼は何度も壁にぶち当たってるんですね。展覧会に出展しては落ち、出展しては落ちの繰り返し。今見ると圧倒的な絵ばかりですが、生前はあまり評価されなかったようです。けれど一村はひたすら絵の道を突き進みます。挙句に奄美大島へ移住する。この絵に対する一途さが作品にも表れているような気がします。自分の力で立っている。絵そのものが凛としている。そういう凄みが立ち上がってくるような気がします。
芸術というのは誰かに評価されるためにやっているのではないのだと思いますが、そうは言っても実際には経済的なことだったり社会的な事だったりで、自分の信じる道を突き進むなんてのはそう出来ることではありません。一村の奄美時代の写真を見ると非常に人懐っこい顔をしていて、体質もあろうかと思いますが体も引き締まっていて、やっぱり生命の強さ、美しさが滲み出ている。今も健在の奄美の人々の一村に関する思い出話を聞いていても、とても魅力的な人だったのではないかなぁと想像します。
昨年は田中一村生誕110周年ということで、各地で展覧会が催されていたようです。何でも滋賀県の守山でも大がかりな展覧会があったようで、昨年7月の日美もそれに合わせての放送だったようですね。なんだ、ちょっと遠いけど守山なら日帰りで行けたのになぁと、やはり録画は溜め込まず早くに観るべしと、改めて誓った次第でごさいます。
ちなみにこの日以来は僕はスマホの待ち受けを一村の代表作、「初夏の海に赤翡翠」にしています。この頃の一村の絵はスマホ時代を見透かしたかのように縦長なのでバッチリ(笑)。ホンマ、いい絵やわぁ。