洋楽レビュー:
『Room25』(2018年)Noname (ルーム25/ノーネーム)
ノーネームの2作目。1作目の『Telefono』(2016年)が好評だったようで、それまでの平穏な生活から一転、各国をツアーで回る日々が続いたそうだ(その間、日本公演もあったようです)。デビュー作でいきなり脚光を浴びたアーティストが一様に辿る道として、慣れないショービジネスの世界に戸惑い、自分を見失いそうになりつつも、そこで見た新たな世界に触発されて次作では一気に世界観が広がっていく、というのはよくある話で、ノーネームも全く同じく、基本的なモノづくりに向かう姿勢としては1作目とさほど変わらないとしても、アウトプットされて出てきたものは音楽的にもより深く、詩の面でもも視野はより大きなものとなり、やはりアプローチとしてはそのリーチが格段に伸びている。
1曲目の『Self』ではそれこそ前作を踏襲したソフトなサウンドだが、聴き手は2曲目の『Blaxploitation』で度肝を抜かれるだろう。ヒップホップのジャズへの接近は近年のトレンドであるが、チャンス・ザ・ラッパーを中心に今やシーンの最重要地域であるシカゴ一派はもともと従来のヒップ・ホップに頓着しない。今回もそのシカゴ一派が繰り出すサウンドはノーネームのリリックを乗せて縦横無尽に駆け巡っている。
続く『Prayer Song Feat. Adam Ness』でもそうだが、リズムはかなり複雑だ。人々の感情に最接近する生き物のようにうねるジャズ。その変則的なリズムはどこかノーネームたちアフリカ・アメリカンのルーツを思わせる。そう、今回のアルバムでは2曲目のタイトル、『Blaxploitation』からも想起されるように自らのアイデンティティーへの言及が顕著だ(『Blaxploitation』の意味は分からないが)。黒人であり、女性であること。そのことはサウンドも含め歌詞に置いてもかなり強く言及されている。落ち着いたトーンの(厳しい世界が歌われてはいるが)1作目を聴いて、ノーネームはいかにもヒップ・ホップな言葉遣いをしない人だと勝手に思い込んでいた身としては、今回の‘nigga’や‘bitch’や‘pussy’といった言葉が飛び交う歌詞に随分と面食らってしまった。詩の詳しい中身は英語をあまり解さないのでほとんど分かっていないが、それでも彼女の意図や決意や意志は十分に伝わってくる。肉体的なサウンドはそのメッセージ故だろう。
ところで、飛躍的に音像が豊かになったこのアルバム。ノーネームの言によると、生の楽器にこだわったそうで(外野から口出しされるのが嫌だから、全部自分でお金を出したらしい!!)、ゲストもふんだんに交えて、通常のポップ・ソングからすれば突拍子もないご機嫌なメロディーが聴けるのだけど(#7『Montego Bae』とか#8『Ace』とか)、これらはチーム全体のアイデアなのか。メロディやサウンドのアイデアはどこまでがノーネームのものなのか。そこはちょっと気になりました。
いずれにしてもノーネームのラップ・スキルは相変わらずとても滑らかでクール。彼女の場合、元々はちょっとしたイベントでポエトリー・リーディングを披露する街の詩人だったのだが、そこは音楽が伴おうが変わらない。キャリアを重ねてフロウも更に磨かれているけど、いかにもラッパーな感じはしないし、雰囲気はあくまでも街の詩人のポエトリー・リーディングというところが僕は好きだ。
Tracklist :
1. Self
2. Blaxploitation
3. Prayer Song Feat. Adam Ness
4. Window Feat. Phoelix
5. Don’t forget about
6. Regal
7. Montego Bae Feat. Ravyn Lenae
8. Ace Feat. Smino & Saba
9. Part of me Feat. Phoelix & Benjamin Earl Turner
10. With you
11. no name Feat. Yaw & Adam Ness