邦楽レビュー:
『天声ジングル』(2016)相対性理論
1曲目、やくしまるのアカペラから入って一気にバンドがなだれ込む感じがいい。余計なギミックは必要ない。これはもうただのバンド。そこにやくしまるの声と絡みつく永井のギターがあれば僕なんかはそれだけでほころんでしまう。
新体制になって2作目。彼らの個性が明確になってきた。やっぱ前作はかつての残り香がそこかしこに漂ってたし、まだまだ手探り状態だったのかも。新しいリズム隊。ガンガン行ってる。これこれ、これくらい思い切りやってくれなきゃ。
ソングライティングはすべてやくしまる。今までは他のメンバーだって曲を書いてたはずなのに、これでいくということはもうそういうこと。明確に方向性がバッチリ出ててスゴクいいんじゃないか。ただまぁやくしまるのソングライティングの不安定なこと。素人みたいなライミングや安易な横文字になんじゃこりゃと思いつつも、時折ソロ・ワークで見せたようなキレキレのソングライティングを見せたりもするもんだから、ワザとなんだかもうなんのこっちゃよく分からないんだけど、ただ今回はこの隙だらけな感じに好感を持ってしまえる妙な説得力があって、なんでそう思えるかっていうとそこはやっぱりバンドとしての音像がくっきり形作られたからだろう。いわゆるロック・バンドにはせーのでドッと出てくる勢いというかゴチャゴチャした感じがあって、細かいことは横に置いとける潔さがある。いつも以上に矢面に立ったギターにドンドカ派手なドラムがあって踊りだすベース・ラインがあって裏方に徹するキーボードがあってっていうはっきりしたバンド・サウンドが未完成なソングライティングだってお構いなしに凌駕してゆける。いや隙だらけだからこそ力を持ちえるのだ。ということでやくしまるさん、やっぱりワザとなんだろか?
ただ新体制云々は別にして、5枚目というそこそこキャリアを積んだ中でこういうしっかりした力強いアルバムを出せたということはとても意味があったんではないかなと。バンドとしての体制がここでもう一回がっちり積み上がって、それはつまりこのバンドとは何かということなんだろうけど、ただ単純にバンドとしてステージに立った様がちゃんと目に浮かぶようになったというのは、やはりここでまた一つ階段を上がったという認識でいいのだと思う。実はもっと過大評価していいのかもしれない。
Track List:
1. 天地創造SOS
2. ケルベロス
3. ウルトラソーダ
4. わたしがわたし
5. 13番目の彼女
6. 弁天様はスピリチュア
7. 夏至
8. ベルリン天使
9. とあるAround
10. おやすみ地球
11. FLASHBACK