邦楽レビュー:
『フェイクワールドワンダーランド』(2014) きのこ帝国
僕が邦楽を聴くときの一番のキーになるのはやはり言葉だ。歌われる内容もそうだけど、それよりなにより言葉とメロディの関係についつい目が行ってしまう。この言葉とメロディの関係というのは、時代を経てどんどん研ぎ澄まされていて、10年前、20年前、もっと前からと比べると、格段によくなっているのはほぼ間違いない。逆に言えば、言葉がオリジナリティを生み出すと言っていいんじゃないだろうか。
このきのこ帝国の2枚目のアルバムも言葉のアルバムだ。確かにキャッチーなメロディではあるんだけど、言葉がメロディを紡いでいるような感覚がある。しかしそこに言葉の音楽化、あるいは日本語とロックの永遠の課題、といったような堅苦しさはない。日本語とメロディが仲良しの状態で出てくるような違和感のなさ。新しい世代にとって、日本語でロックをやるということは、もうそういうことなのかもしれない。勿論、東京を「とーきょー」と言わずに「とうきょー」と唄うソングライターの佐藤はそこのところに自覚的だ。加えて彼女は言葉を的確にフックさせる体内時計を持っている。これはもう天性のもの。
詩の内容の方は割と深刻。そりゃそうだ。10代、20代というのは深刻なものだ。時々若い頃を振り返って、あの頃はよかったなどど言う人がいるが、多分その人はあの頃の事を忘れてしまったのだろう。
アルバム全体で見ると、一番最後に一番ポップなナンバーを持ってくるところが〇。結局、詩が暗いと言われようが根はポジティブ。ロックだもの。そうこなくっちゃ。サウンドもアイデアに満ち溢れているし、日本のロックだって凄い。
#2で350mlの缶ビールを「スリー・ファイブ・オー・エム・エルの缶ビール」と歌ったり、#4の「夜 未来 永い 怖い 夢見る 終わり」で始まるバースの締めが「阿呆くせぇ」だったり、#11の「多分ゲームオーバー」と「捨ててしまおうか」の後韻や、「テレパシー」と「オーバードライブ」を引っ付ける、分かるんだか分からないんだかよく分からないけど、何かすごく分かる言語感覚が抜群だ。一方で#9の「みかんを剥く君の手が黄色い~」というくだりの情景描写も素晴らしい。ついでに#4のギター・フレーズがいちいちシビレル!きのこ帝国、かっこいいぞ!
1. 東京
2. クロノスタシス
3. ヴァージン・スーサイド
4. You outside my window
5. Unknown Planet
6. あるゆえ
7. 24
8. フェイクワールドワンダーランド
9. ラストデイ
10. 疾走
11. Telepathy/Overdrive