洋楽レビュー:
『I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it』(2016)/The 1975
(君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついてないから。/The 1975)
1stがなかなかのものだったので、次はどうなるのかと期待して待った2nd。キーワードは‘すぎる’。オシャレすぎるし、甘すぎるし、80年代っぽすぎるし、ロマンティックすぎるし、センス良すぎるし、イケメンすぎるし、モテすぎるし…。そして何より、、、長すぎるっ! まあタイトルからしてこれですから…。
敢えて作った音の隙間にセンス抜群のフレーズを持ってくるオシャレ感は今回も健在だ。アクセントをつけて押韻を転がしてくリリックも抜群で、裏拍(間違ってたらゴメンナサイッ)を効かせて畳みかけるリズム感もお手の物。そこのバックで鳴ってるのは同じフレーズをリピートするシャレたギター・リフだという1stからお馴染みのこの得意技をやられた日にゃあ、そりゃあもう誰だって参りますよ。「まあ皆さん聞いて下さい」ときっと人生幸朗師匠も唸ったであろうセンス抜群のオシャレ感だ。
リード・トラックが#2 『Love Me』のようなファンク・チューンだったので、今回は1stとはまた違うジャンルレスなアルバムになるのかなあなどと(何でもできそうな人たちなので)思っていたが、ふたを開けてみれば1stの甘い部分を更に過剰にしたデコレーションな仕上がり。要所要所でピリッと辛さを効かせてくれたりもするんだけど、基本的にはこの恋人に話しかけるような甘い感じが続く。まあ今回はこの過剰さで突っ切るってことなんでしょうか。なんつったってジャケットがピンクだっつう(※巨泉さん風に)。ただ歌詞のフォントまでピンクにするのは止めてちょ。めっちゃ見にくい…。目ぇ疲れるやんけっ!
もうひとつ苦言を言わしてもらえればインスト。収録時間の長いアルバムなので、箸休めにでもなるべき存在であるはずなんだが、ちょっとここでもやりすぎ。表題曲の#12くらいメロディに強弱があればいいんだけど、同じシークエンスの繰り返しは流石にしんどい。特に#7、「まだ続くんかいっ、終わったと思ったやないか!」というセリフが出てくること請け合いである。
さらに難点を言わせてもらうと80年代すぎるという点。目をつむってたらハリウッド映画全盛期の80年代にいるような気分。あ、日本では角川映画です。#10や#14みたいなもろ80年代な、ロマンティックス・ニュー・ウェーブ感(また違ってたらゴメンナサイッ)は、アラフォーのわたくしなどは思いっ切り振り返りモードになってしまい、なんとなく寂しくなってしまうのです。折角なんでもできる器用さを持ってるのだから、#2みたいな、「やったるで!」感をもう少し見せて欲しかった。
とはいえ、これだけずっとナルシスティックでいられるのは大したもの。対セル戦に備え、スーパーサイヤ人のまま過ごす悟空のようだ。しかも17曲もやっておいてお腹一杯感や胃もたれが一切しないのは不思議。つまりはこれは必死こいた感が皆無だからなんですねぇ。だからまあ今回は甘~いアルバムになったけど、やろうと思えばがっつりロックとかダンスものとかもできるんだぜ、みたいな。悟空なら、「おめえ、まだ力隠し持ってんだろ?」とか言いそうな余力感もこのバンドの魅力なのではないでしょうか。中盤に挿まれる#8『Lostmyhead』や#9『The Ballad of Me and My Brain』や#11『Loving Someone』みたいな尖ったやつだってオシャレにこなしちゃうし、最後の3曲(#15『Paris』、#16『 Nana』、#17『She Lays Down』)なんて涙ちょちょぎれるいい曲じゃあないの。もしかして最後に「普通にこんなんもできるんやん!」って思わされた私は彼らの思う壺なのでしょうか?
やばい、なんかこのままではモテない野郎のひがみになっちまいそうだ…。また詞がいいんだなこれが。輸入盤のひとも是非ネットで訳詞を検索してみておくんなまし。陽のサウンド・デザインと陰のポエトリー。その対比を存分に味わえ!
まったく、なんて‘すぎる’連中だ。最後に一言言わせてくれ。ちくしょー!オレもモテたいぜ! しまった、まんまとレビューも長すぎてしまった…。
1. The 1975
2. Love Me
★3. Ugh!
4. A Change of Heart
5. She’s American
6. If I Believe You
7. Please Be Naked
8. Lostmyhead
9. The Ballad of Me and My Brain
10. Somebody Else
11. Loving Someone
12. I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it
☆13. The Sound
14. This Must Be My Dream
☆15. Paris
16. Nana
17. She Lays Down