洋楽レビュー:
『W.L.』(2021年)The Snuts
(W.L./ザ・スナッツ)
このところ英国初のロックが元気だ。長い間ヒップ・ ホップやダンス・ミュージックに押されっぱなしだったが、 若い才能が次々と登場している。 当初はアイドルズやフォンテインズD.C、 シェイムといったポスト・ パンクと呼ばれる威勢のいいバンドが多かったが、今年に入り、 長尺ジャム・バンドのブラック・カントリー・ニュー・ ロードやポエトリー・リーディング主体のドライ・ クリーニングといった風変わりなバンドまでもが英国アルバム・ チャートのトップ10入りを果たしている。
長尺ジャム・バンドやポエトリー・ リーディングがトップ10ヒットになるなんて流石ロックの国だな と感心するが、そことは真逆のポップ・ サイドの真打と言えそうなのがザ・スナッツ。 中学校で出会った仲間とバンドを組み、アークティック・ モンキーズに影響を受けたというから、 その背景もまさに正統派ロック・キッズだ。
アークティックへの憧れで言えば、#3『Juan Belmonte』はアルバム『AM』期のアークティックだし、 続く#4『All Your Friends』はまんま初期のそれ。 けれどアルバム全体を聴いていると、 アークティックだけではない、00年代、 10年代ロック音楽の影響をそこかしこに感じることが出来る。
まず思い浮かべたのは、彼らと同じスコットランド出身のザ・ ビュー。シャウト気味に歌う時の声がカイル・ ファルコナーそっくりやね。このところ名前を聞かなくなったが、 ザ・ビューも勢い重視と思いきや音楽的素養確かな連中で、 しかもとっつきやすいメロディーが最大の持ち味という点では割と 近いかなと思います。
あと、#10『Don’t Forget It (Punk)』とか#11『Coffee & Cigarettes』の職人的なソングライティングには、 これは英国じゃないけど、フォスター・ザ・ ピープルに通じるところがあって、そう思うと声までマーク・ フォスターに似ている気がしてくる。マーク・ フォスターはデビュー前にCM音楽なんかを手掛けていたというか ら、それに近い職人気質だってザ・ スナッツはあるのかもしれない。
あとやっぱりロック・ バンドと言えども2020年代でもあるわけだから、 当然のことながら4ピースだけでドカンということじゃなく、 ちゃんと電子的なアレンジも施されていて、 コーラスもそうだけど耳を凝らせばいろんなフレーズが飛び込んで 来る。彼らを代表するロック・チューンになりそうな#6『 Glasgow』だって単純にドカンじゃないもんな。 この辺はそれこそフォスター・ザ・ ピープルもプロデュースしたことのあるトニー・ ホッファーの手腕も大きいのかもしれないけど、そうは言っても、 やっぱり彼らにその素養があるのだと思います。あ、 勿論4ピースでドカンも僕は好きです。
いい曲を沢山書けて、それを料理する技術とセンスも持っている。 今後これがどこまで続くか分からないが、 多分彼らの推進力は初期衝動だけではなさそうだ。 あちこちに気の利いたギター・フレーズを忍ばせたり、 アルバム最後をしっかりロック・バラード#13『Sing For Your Supper』で締めるとこなんざ、まさに王道ギター・ロック・ アルバムと言っていいだろう。