Lotus / Little Simz 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Lotus』(2025年)Little Simz
(ロータス/リトル・シムズ)
 
二つ前のアルバム『Sometimes I Might Be Introvert』(2021年)に度肝を抜かれまして、元々ラップは聴かないクチなのですが、ラップだなんだと言う前にスゴイ音楽はあるわけで、ケンドリック・ラマーなんかもそうですが、この辺になるともうジャンルどうこうではなく聴かんといかんとなという、僕にとってはリトル・シムズもその一人ですね。
 
今作の大きな変更点はプロデューサー。幼馴染でずっと一緒にやってきたInfloとはなんかお金で揉めてるようです。でもそれがかえって良かったというか、昨年末にInfloはいつものSault名義でアルバム出しましたけど、なんか手癖でやってんな的な停滞感があってちょっとイマイチ、やっぱ新しさが出てこないとシンドイなと。なので、リトル・シムズは理由はあったにせよ、Infloと組まなくて正解だったかもしれないですね。
 
新しい人と組みつつもジャンルを横断しつつ聴いて楽しいポップな部分は手放さない。というより今まで以上にR&B、ソウル音楽にだいぶ寄ってるような気はしますが、つまりこの辺はプロデューサーどうこうというより、もともとのリトル・シムズ自身の資質だったということですね。その上でInfloとのコラボで鍛えた部分、ストリングスなんかがそうだと思うのですが、もうしっかり自分のものにしている感じはします。
 
オープニングはそのストリングスを配したハードな『Thief』で、2曲目はアフリカンビートの『Flood』。3曲目はセサミストリートでコミカルな『Young』。続く『Only』はピアノが主体のソウル・ナンバー。という風に最後まで曲ごとに表情が変わり飽きさせない。そしてそのどれもがキャッチーでポップ。リリックは深刻かもしれないけど、音としては凄く気持ちよくて、この辺のバランス、かじ取りは素晴らしいですね。表題曲のマイケル・キワヌーカとコラボしたロックなラップの『Lotus』もめちゃくちゃかっこええ!
 
あと今回はバンド仕様です。今時はバンドか機械か聴いてて区別つかなかったりするのですが、やっぱこうやって聴くとダイナミズムとかグルーヴですね、特に今回はソウル寄りですから、やっぱ人がやってんなというのが音から伝わるとより近さを感じます。ラップ、ヒップホップをバンドでするっていうのがやっぱ新鮮でいいですね。ライブで聴くと最高だろうな。それにこの人の声はいかにもラップ的な芝居がかった感じはないし流れるようなそれでいてしっかりと粘っていく言葉の吐き出し方が単純にカッコいいので、ホントにようできたポップ・アルバムとして聴けると思います。
 
ジャンルが山ほどあろうが要は大衆音楽。間口が広くラップを普段聴かないひとにも気持ちよくさせてしまうってのは凄い事。『Sometimes I Might Be Introvert』(2021年)とは毛色が違うのがまたいいし、新しいアプローチでも傑作を作っちゃう。なかなか凄い人だと思います。

Sometimes I Might Be Introvert / Little Simz 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Sometimes I Might Be Introvert』(2021)Little Simz
(サムタイムズ・アイ・マイト・ビー・イントロヴァート/リトル・シムズ)
 
 
このアルバムで度肝を抜かれた一人です。同じくInfloが手掛けたSAULT名義の幾つかのアルバムでその洗礼は受けていたはずなのに。つまりはリトル・シムズなる英国の若いラッパーにもやられたということ。ロック聴きの僕がラップをうなされる程に聴き続けたのはチャンス・ザ・ラッパー以来。よい音楽にラップもロックもないということだが、このキャッチーなラップには誰だってやられるでしょ。ってキャッチーなラップって何?
 
つまりリトル・シムズの織りなすフローには俺はこんなに偉いんだとか俺はこんなにデカいんだといった俺様自慢はなく、ただ淡々と私の物語を私小説のように、時には絵本のように読み聞かすのみ。まぁ絵本にしては大変な人生だけど、この絵本のようにが凄く大切で、そこには淡い色があって時にはどぎつい色があって、そうやって自分の側に引き寄せられるからこそ私のようなサラリーマンでも絵を感じられるのです。#5『I Love You, I Hate You』を聴くとあなたも映像が浮かぶはず。
 
とかなんとか言ってそれっぽく書いているが、#6『Little Q, Pt. 2』や#13『Protect My Energy』といった華やかなポップさにやられたのが事実。饒舌高速ラップにサビはキャッチーなメロディー、でもってオシャレなサウンド、っていうウケる要素は今までにも沢山あったろうけど、そこを狙ってやったのとやってるうちに壮大にこうなってしまったとでは大きく異なる。加えて、リトル・シムズとInfloは幼馴染という背景もあってか完璧なコラボ。どこまで登るんだいというぐらい登ってます。
 
全19曲。頭から順に聴いてたどりつく#18『How Did You Get Here』は感動的。ここでリトル・シムズが語るこれまで努力は、今現在、何かに向けて一心不乱に取り組んでいる人たちへの大いなる勇気となるだろう。それを受けての最終曲、誤解から逃れることの出来ない様を描く#19『Miss Understood』もまた心を打つ。