洋楽レビュー:
『I See You』(2017) The XX
(アイ・シー・ユー/ジ・エックス・エックス)
ロンドン出身。ギターとベースの男女ボーカルにトラックメイカーという3人組。ミニマルで繊細なサウンドで2009年のデビュー作から軒並み高評価。今やアラバマ・シェイクスやTHE1975らを横目に、次世代ヘッドライナーの筆頭格と言われているらしい。僕も名前はチラホラ聞いていたが、今までロクに聴いたことがなかった。今回、何となく興味を持ってユーチューブで『On Hold』を聴いたところ、心に何か余韻に近いものが残った。それは体験と言ってもよいものだった。
昨今、ジャンルをまたにかけたクロス・オーバーなんて言葉をよく耳にするが、このThe XX はその典型。ロックが、ある熱に浮かされた非日常とするならば、ここにあるのは平熱のまま歌われるただの日常。これが最新型のロックと言われれば、そうですかとしか言えないが、そう言わせるだけの説得力があるのも確か。日常であるのに地に足のつかないフワフワとした所在なさ。我々の心に何かを残すこの感覚の正体は何だ?
インタビューを読んでいると、互いに理解しあって、互いに認め合って、3人でいることが最もよい結果をもたらすなんて言い切っているけど、まあそれは大人の僕らからすれば、そうかそうかと聞くしかないのであって、結局彼ら自身はそう信じているのは間違いないんだろうけど、今その儚さについても知りつつある状態というのが現状に最も近いところではないだろうか。僕ら分別めいた大人もかつては知った道であり、今の彼らにとってはそれが真実に違いないというのも知っていて、だからそれを否定する気は全くないんだけど、それがずっとこの先続いていかない、変容していくことも知っているわけで。その狭間にある不安定さがここにある音楽で、この美しさとか無垢さの由来するところは結局そういう事なのではないかと思う。
『I See You』、僕は君を見た、私はあなたを見た、というのはまさしくそういうことで、間違いなく事実で真実なのだ。僕たちはそれを知っているし、彼らは今そこにいる。彼らの無防備な音楽を否定しきれないのは、僕らにとってもそれは愛しくてたまらないものだから。
隣に座るあの子にしか聞こえないような声で外の世界へ向かおうとしている彼らはかつての僕ら。この居たたまれなさややるせなさは万人に開かれている。
1. Dangerous
☆2. Say Something Loving
3. Lips
4. A Violent Noise
5. Performance
☆6. Replica
7. Brave For You
★8. On Hold
9. I Dare You
10. Test Me
11. Naive – Bonustrack for Japan –
12. Seasons Run – Bonustrack for Japan –