Let Me Get By/Tadeschi Trucks Band 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Let Me Get By』(2016)Tadeschi Trucks Band
(レット・ミー・ゲット・バイ/テデスキ・トラックス・バンド)

 

こういうのは普段からよく聴くわけじゃないんだけど、どういう契機かたまに聴きたくなる。ホーン・セクションを含め、総勢10名からなる大所帯バンドの3rdアルバム。ブルース・ロックと言うのかサザン・ロックと言うのかよく分からないが、電子音に溢れた現在ではアナログなバンド・サウンドがかえって新鮮だ。

バンドの全面に立つのはその名のとおりデレク・トラックスとスーザン・テデスキ。デレクは名うてのギタリストでありプロデューサー、スーザンはメイン・ボーカル。この二人の存在感が突出しているのかなと思いきや、実際はあくまでもバランスを重視した音作り。皆で同じ方向を向いて練り上げるといった風情で、僕は2枚目を聴いてないけど、1枚目と比べてもいいこなれ感というか、バンドとしての一体感がより感じられる。また今回は前身のデレク・トラックス・バンドでボーカルを取っていたマイク・マティソンが2曲、メイン・ボーカルを務めていることもいいアクセントになっていて、1枚のアルバムとしても広がりが出てきたように思う。

バンドの売りはデレクのギターということになるんだろうけど、キーボード関係が充実しているのも魅力のひとつだ。ほぼ全編に渡って、グランド・ピアノを始め、クラビネットやウィリッツアーといった電子ピアノ、そしてハモンド・オルガンがクレジットされている。演奏するのはコフィ・バーブリジュ。表題曲でもいかしたオルガン・プレイを聴かせてくれる。今回のコフィはフルートでも活躍。#9『アイ・ウォント・モア』でのデレクのギターとの掛け合いは本作の見どころだ。文字通り八面六臂の活躍で、デレク、スーザンと並んでこのバンドの顔と言っていいだろう。

このバンドはデレクのワンマン・バンドではないので派手なギター・プレイは見せないが、それでも時折見せるギター・ソロがあるとやはりグッと引き締まる。この辺りのさじ加減も抜群だ。テクニカルな集団だが、冗長にならずすっきりとまとめられていて風通しがいいのも特徴だ。

例えば、久しぶりに実家に帰って近しい人や地元の友達に会ったりっていうような何かホッとする雰囲気がこのバンドにはあって、米国産のブルース・ロックなんて言うとなんか敷居が高そうだけど、日本人の我々にとってもまるで初めからそこにあったかのような安心感がある。

この手の音楽は家でじっくり耳を傾けて、というイメージだが、意外と景色を見ながら外で聴くのがはまる。要は開放的なんだろう。

バンドはこのアルバムのリリースに際して来日、東京・大阪・名古屋でホール公演をしたらしい(なんと東京は武道館!)。日本にもこの手のバンドの需要が結構あるのがびっくり。一体どういう人たちが来るのだろうか?

 

1. Anyhow
2. Laugh About It
3. Don’t Know What It Means
4. Right On Time
5. Let Me Get By
6. Just As Strange
7. Crying Over You / Swamp Raga For Hozapfel, Lefebvre, Flute And Harmonium
8. Hear Me
9. I Want More
10. In Every Heart

#7の穏やかなフルート・ソロから#8に繋がるところがよいです。

Revelator/Tadeschi Trucks Band 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Revelator』(2011)Tadeschi Trucks Band
(レヴェレイター/テデスキ・トラックス・バンド)

 

移動している時に聴きたい音楽というものがあって、それも通勤電車とかそういう場合ではなく、一人でどこかへ出かける時、或いは出張か何かの帰り、少し旅に近い感覚が入り混じった時に聴きたくなる音楽というものがある。そうだな、やはり車ではなく電車がいい。それも長距離を移動する特急列車、または新幹線でもいいかもしれない。例えばトンネルを抜けたら、普段は見慣れぬ景色がパーッと広がって、普段は感じえないような心持ちが動き出す。すると偶然耳に付けていたイヤホンからそんな感情を包み込むいい音楽が流れてきて、気持ちが揺らいでしまう。けれど少し懐かしくもあって胸が熱くなったりして。誰しもそんな経験があるかもしれない。

ギタリスト、デレク・トラックスと彼のパートナーであるスーザン・テデスキを中心とした大編成バンド。ここに集まった面々は超一流のミュージシャンではあるけれども、このアルバムを一段素晴らしいものにしているのは、彼らの音楽に対する深い愛情であり、音楽仲間たち相互のリスペクト、すなわちミュージシャン・シップという一言に尽きるのではないだろうか。

デレク・トラックス・バンドは以前から気にはなっていたバンドのひとつ。でも、どうもしゃがれ声のボーカルに馴染めなかったんだけど、今回は、そのマイク・マティソンがバッキング・ボーカルに回り、スーザン・テデスキがメインを努めている。個人的に最高というわけではないが、まあいいんじゃないだろうか。合う合わないというよりむしろ、信頼関係がそれを凌駕してしまっているというべきかも。

本作のハイライトはなんと言っても前述のマイクとデレクによる共作(バックに回ったが、マイクはなかなかええ仕事しよる)、M3の『ミッドナイト・イン・ハーレム』。デレクのスライド・ギターと、こちらもデレク・トラックス・バンドから参加のキーボード・プレイヤー、コフィ・バーブリジュによるハモンド・オルガンとの掛け合いは言葉では言い尽くせない美しさ。ただ事実を淡々と述べる詩と、抑制したスーザンのボーカル、そして素晴らしい演奏が言葉以上に雄弁に語りかけてくる。僕はアメリカの大地も知らないし、英語も解さないが、胸が熱くなり涙がこぼれてしまった。

音楽と共にある人生。アルバムを聞きながら、ここにいるミュージシャンたちを思い浮かべるとき、僕にはふとそんな言葉がよぎった。勿論、いいことばかりではないだろうが、音楽なしでは生きてゆけない彼らの音楽は、1+1が5にも6にもなるまさにバンド。そんな彼らに音楽の女神がそっと微笑んだのかもしれない。

僕たちは何処から来て何処へ向かうのか。今手にしたこの場所は最善なのかもしれないけれど、僕たちの故郷はもっと他の場所にあるのではないのか。移動するときに聴きたくなる音楽というのは、そうした人が本来持ちうるノマド的な感覚を補完する音楽なのかもしれない。

 

1. Come See About Me
2. Don’t Let Me Slide
3. Midnight in Harlem
4. Bound for Glory
5. Simple Things
6. Until You Remember
7. Ball and Chain
8. These Walls
9. Learn How to Love
10.Shrimp and Grits (Interlude)
11.Love Has Something Else to Say
12.Shelter

 (日本盤ボーナストラック)
13.Easy Way Out