フェニックス Live In Concert 2023 3月14日 Zepp Osaka Bayside 感想

PHOENIX Live In Concert 2023 3月14日 Zepp Osaka Bayside 感想

 

昨年リリースされたアルバム『Alpha Zulu』をフォローするツアー。3月はアジアです。香港、シンガポール、フィリピン、タイ、そして日本では大阪と東京の2公演です。僕は3月14日に行われた大阪公演へ行ってまいりました。前回の来日は2018年4月でしたから丁度5年ぶりです。彼らももう結構な年齢になっているとは思いますが、全く変わりませんね。当代一のオシャレバンドは健在でした!

19時開演でしたが、先ずはサポートアクトからです。3兄弟からなるバンド、Gliiico だそうです。アジア系のバンドのようですが、時おり流ちょうな日本語でもMCをしていました。いわゆるインディー・ロックですね。熱気溢れる演奏でしたけど、ちょっと長すぎたような。。。40分以上はやってましたね(笑)。なので、フェニックスの登場は20時頃。待ちくたびれたせいもあって、初っ端から会場大爆発でした。

なんてったっていきなり怒涛の展開、『Lisztomania』『Entertainment』『Lasso』『Too Young』『Girlfriend』と続く人気曲の連発ですから、そりゃあ盛り上がります。特に『Lasso』までの冒頭3曲ですね。みんな飛び跳ねての大騒ぎ。僕も年甲斐もなくはしゃぎすぎて、既にこの時点でへとへとになりました(笑)。

新しいアルバムからは5曲披露されました。どれも昨年から行っているツアーでだいぶこなれたようで、全部かっこよかったです。印象深かったのは『Winter Solstice』ですね。キーも含め強弱のハッキリとした曲ですし世界観が際立っていました。一方、定番の『If I Ever Feel Better』では仮面にマントの謎の人物が登場しトーマが跪いて歌う新しい演出も。あれはなんのメタファーだったのかな。

あと今回は映像表現が凝っていて、曲ごとにステージ後方の画面にいろいろと映し出されていました。中でもインスト曲の『Love Like a Sunset Part I / Love Like a Sunset Part II』は見応えありました。なんか『2001年宇宙の旅』というかキューブリックの映画みたいな感じでとても興味深かったです。インスト曲だからこそ出来た観客の視線を釘づけにする演出ですね。この辺の展開は流石です。映像と言えば、トーマがのぞいた双眼鏡に映る観客の様子がステージ後方の画面にそのまま映し出されるという楽しい演出もあって、そこに自分が移るわけですから当然お客さんは盛り上がりますね。

本編は1時間ちょいでしたか。短いですけど濃密でした。アンコールはキーボードのみでの弾き語りでスタート。『Telefono』から『Fior Di Latte』へ続くラブ・ソング。なんともあま~いトーマの声にうっとりしますね。バンド編成に戻っていくつかやったあとラストは『Identical』のリプレイズ。今回のトーマが下に降りてくるための曲はこれですね(笑)。当代一のオシャレバンドですから相変わらず女子率高め。なので多くの女子がトーマめがけてワァ~って寄っていきました(笑)。

しかしまぁ相変わらずnイケメンですな。頭ちっちゃくてスラッとした体系も全く変わりませんね。見かけだけじゃなく高音もきれいなままだし、実はもう以前のような元気なステージングはないかなとも思っていたのですが、失礼しました、全く衰えてませんね。ギターの位置が妙に高いあの人もいつも通りチャーミングでした。時折、面白いフレーズを弾いてましたしね。しかしいつも大活躍のドラムの人。バンド・メンバーにはならんのやね(笑)。

アンコール含め、トータル1時間半ちょいぐらいだったのかな。でも強弱あってのよく練られたステージングでエンターテイメントとしての完成度は流石です。ライブによっていろいろ感想はあるけれど、単純に一番楽しいライブと言えばフェニックス!この認識は今回観ても変わりませんでした。

実は翌日が同じ会場でアークティック・モンキーズだったんですね。どっちも行くわけにはいかず非常に迷ったんですけど、フェニックスはもうベテランの域ですから元気なうちにとこちらを選びました。アークティックはまだ若いからね。あ~でもアークティックも観たかった。やっぱロックのライブは最高です。僕は今回が初のコロナ後の洋楽単独ライブでしたけど、そのことを再確認しました。

Alpha Zulu / Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Alpha Zulu』(2022年)Phoenix
(アルファ・ズール/フェニックス)
 
 
前作からは5年ぶりだそうで、相変わらずインターバルは長いが、こうしてちゃんと新作を出してくれるのは嬉しい。今回はルーヴル宮内のパリ装飾芸術美術館の中に機材を持ち込み、レコーディングをしたとのこと。大衆音楽家にこういう場所を提供出来てしまうのは流石フランス。日本だとどうでしょうねぇ。
 
今回はシンセサイザーが割と耳に付くが、5枚目の『Bankrupt!』(2013年)ほどの派手さは無い。どっちかっていと4枚目『Wolfgang Amadeus Phoenix』(2009年)に近いかも。こう書くと大ヒットした『Wolfgang ~』並みの完成度を期待してしまうかもしれないが、流石にあそこまでの爆発力は無いかな。でも先行シングルになった#2『Tonight』や#4『After Midnight』なんかは今の彼らのスタンスに当時のストロング・ポイントを加味したような、まるで『Wolfgang ~』ver.2.0のような出来栄え。ていうか前半、かなりの名曲ぞろい。
 
面白いのはヴァンパイア・ウィークエンドのエズラが参加している#2 『Tonight』で、エズラが歌っているところはまんまヴァンパイア・ウィークエンドなのに、トーマが歌っているところは思いっきりフェニックスっていう不思議。なんにしてもアルバム屈指の名曲やね。
 
というところで強力な前半に比べ後半は少し弱いかなとは思いました。『Wolfgang ~』の『Girlfriend』みたいに最後の方でもう1曲強力なポップ・ナンバーでひと押しあればなというところでしょうか。#10『Identical』もいいんだけどちょっと地味かな。
 
美術館に持ち込んだ機材の中には日本製の古いシンセサイザーもあったようで、#2『Tonight』や#4『AfterMidnight』のミュージック・ビデオは日本が舞台だし、相変わらずの日本びいきで嬉しい限り。なんじゃかんじゃ言いつつ、早速YouTubeに公開されたこのアルバムのお披露目ライブを見ていると俄然盛り上がってしまう。やっぱフェニックス、ええわ。

フェニックス ジャパン・ツアー2018 Zepp 大阪ベイサイド 感想

ライブ・レポート:

Phoenix  Japn  tour  2018 in Zepp Osaka Bayside

 

4月27日(木)にZepp大阪ベイサイドで行われたフェニックスのライブに行って参りました。もう素晴らしいの一言。いつものことながら最初から最後までテンション上がりっぱなし。圧巻のパフォーマンスでした。

19時開演、サポートアクトの「ねごと」のライブでスタート。女の子4人組のエレクトロ・ポップ・バンドというのかな。4つ打ちが多くていかにもな感じでしたが、ラス前の曲は良かったです。最前列のおっかけとおぼしきファン数名のテンションが凄かった(笑)。彼らは最後までいたのかな?ねごとのライブはちょうど30分きっかりで終了。真面目な方たちです。頑張ってほしいですね。お客さんのマナーもよくて、ねごとのことはよく知らないだろうに(私もですが…)、それでもスマホをいじることなく体を揺らしながらちゃんと聴いていました(笑)。やっぱこういうのがいいですね。

そこから約30分後、ステージの準備も整い暗転し、遂にフェニックスのメンバーが登場!すかさず始まりました!最新アルバム『Ti Amo』のオープニングを飾る『J-Boy』だ!

『J-Boy』もオシャレで素敵過ぎるんですが、こっからが凄かった。これもうアンコール!?っていうぐらいのテンションでひっくり返りそうになりました(笑)。『Lasso』に『Entertainment』と来て『Lisztomania』。この流れはもう笑うしかないでしょう。『Lasso』のサビも、チャイナな出だしで始まる『Entertainment』のイントロも凄いのなんのって。この曲の盛り上がり方はハンパなかったッス。更に盛り上がったのが『Lisztomania』。イントロが始まった時の大歓声と言ったらもう。勿論、サビは大合唱しましたよ。ちゃんと予習してったもんね。

しかしまあドラムのマッチョな人(スミマセンッ、名前知らなくて)の叩きっぷりは凄いね!もうドラムセット壊れるんじゃないかっていうぐらいで、飛び跳ねながらぶっとい腕で叩いてました(笑)。その横で太鼓やその他の楽器を静かに演奏してる神父さんみたいな髭モジャのおじさんとの対比がなかなかのツボでした(笑)。

『Everything Is Everything』があったり、『Consolation Prizes』あったりでまさにオール・タイム・ベストなセトリ。盛り上がってばっかで忙しかった中にインスト曲の『Sunskrupt!』が挟まる展開も良かったです。と言ってもこの曲はエレクトロ組曲てな仕上がりでまた別の高揚感。これはこれで存分に聴かせてくれました。そして本編最後は『If I Ever Feel Better』で締め。しまった、この曲を予習すんの忘れてた。サビは客に歌わすってやつね。代表曲なのにすっかり抜けてしまいました(笑)。

ここで一旦終了。5分ぐらい挟んでアンコールです。まず出てきたのはボーカルのトーマとギタリストのローラン。そういえばローランさん、いつもギターの位置がスゴイ上なのが気になっていましたが、この日ももちろん窮屈そうなお馴染みのスタイル。ついでに言うとこの方、チャーミングな方でちょいちょいおふざけを放り込んできます(笑)。

で二人で静かに歌うは『Goodbye Soleil』。オリジナルもいいけど、この曲はこういうパターンもはまりますね。手前味噌でアレですが、この曲に触発されて私、当ブログでちょっとしたお話、「さよならソレイユ」ってのを書いていますので、どうぞそちらもよしなに…。

『Telefono』ではラブ・ラブ・トークの部分を黒電話でリーディングする演出も。CDではイタリア語で「Pronto」って言うところを「もしもし」って言ってくれました!続いて『Consolation Prizes』でまたテンション上がって、必殺の『Fior di latte』。タイトルどうりのあま~いラブ・ソングがたまりません。物凄い多幸感ですな。続いてこれもとっておきの『1901』。もうそろそろ最後だってのはみんな分かってるし、更に輪をかけての物凄い爆発力でした。

で最後の最後は『Ti amo di più』。要するにトーマがフロアに下りてくるための曲です(笑)。揉みくちゃにされながらも嬉しそう。割と近くだったので僕も急いでそっちへ向かい、体触ったり、サラサラヘアをぐしゃぐしゃっとしちゃいました(笑)。手すりの上を歩いて最後はお神輿状態。ステージに戻る時には足が上になってました(笑)。とまあ、こんだけやりゃあいいでしょうという感じで正に大円団。お腹一杯、お客様満足度100%の素晴らしいライブでした。

しかしまあお客さんのスパークもハンパなかった(笑)。1曲1曲が嬉しくてしょうがないっていうか、この日を待ちに待ったというか、それでいて濃ゆーい感じは一切なくて、自由でオープンな雰囲気。例えばビール片手に気だるく踊る人がいたり、ずっと手を挙げて気持ちよく踊ってる人がいたり、ジャンプしてる人がいたりと皆が思い思いに好きなように楽しんでいる様子がとてもいいのです。で終始みんな笑顔。そんなライブ滅多にないかも。

ただそれもフェニックスの面々が楽しそうだからで、仕事で来ましたじゃなくて、ステージ上の彼らも笑顔だし、そりゃこっちも笑顔になるし、彼らが自由でオープンだからこっちもそうなるし、でそれが彼らにも伝わるからもう多幸感スパイラルがハンパないのです!僕は過去にサマソニで2回、彼らのステージを観てその度にこんな多幸感を感じるライブはもうないだろうなぁと思っていましたが、今回のフルセットのライブは更にそれを上回りました!かっこいいライブ。感動的なライブ。色々あると思いますが、楽しいライブと言えばフェニックスに勝るものはございませんっ!!

ちなみに客層を見渡すと女子の方が多かったかな。しかも若い子が多い!2000年デビューの中堅バンドにこれだけ若い女子が集まるなんて!いや~、凄いっす。恐るべし、フェニックス!

それにしてもあのフェニックスが1000人程度のライブハウスで観れるなんて。いやー、こりゃ日本ならではというか、ここは素直にお得感満載ということで喜びましょう。

そーいやトーマさん、「おーきに」って言うてはりましたで!

 

セット・リスト:
1. J-Boy
2. Lasso
3. Entertainment
4. Lisztomania
5. Everything Is Everything
6. Trying to Be Cool
7. Tuttifrutti
8. Rally
9. Too Young
10. Girlfriend
11. Sunskrupt!
12. Ti amo
13. Armistice
14. Rome
15. If I Ever Feel Better

(アンコール)
17. Goodbye Soleil
18. Telefono
19. Consolation Prizes
20. Fior di latte
21. 1901
22. Ti amo di più

Bankrupt!/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Bankrupt!』(2013)Phoenix
(バンクラプト!/フェニックス)

 

フェニックスの5枚目。グラミーを受賞し世界的ブレイクを果たした『Wolfgang Amadeus Phoenix』(2010年)を受けてのアルバムだ。『Wolfgank~』ではついに鉱脈を発見したかのようなフェニックス独自のサウンドを展開。この路線でもう一発行くのかな、ていうかもう一発行って欲しいな、なんていうこちらの甘~い期待を覆すかのように全く違う角度で攻めてきました。てことでさっすがフェニックス、と思いきや、おフランスのマイペースなポップ職人が打ち出したのはなんとオリエンタル。オリエンタルといっても日本や中国ではございませんでぇ!舞台は香港HongKongだ!

オープニングを飾るのは『エンターテインメント』。春節祭でも始まったかのような派手なイントロで皆の頭の上に?が浮かんだところですかさず『Wolfgang~』的なドラムが一気になだれ込んでくるこの過剰さ。こちらの期待を見事に見透かすこのセンスは流石です。ちなみにライブでこの曲がかかる時のテンションは凄いっす。

2曲目『ザ・リアル・シング』、3曲目『S.O.S.イン・ベル・エアー』と続く辺りでこのアルバムの概要は見えてくる。ぎらぎらシンセ全開で騒がしいったらありゃしない。4曲目の『トライング・トゥ・ビー・クール』はそれに加えてオリエンタルな雰囲気満載で気分はもう80年代の香港。そやね、ジャッキー・チェンとかそーいうのではなく、ハリウッド映画の香港とでも言おうか。ほら、80年代の日本を舞台にしたハリウッド映画って唐突にニンジャが出てきたり、やたら派手なメイクのゲイシャが出てきたりってのがあるけどそういう西洋人がイメージするオリエンタルっていうのかな。香港じゃなくてHongKongってことです。

でそれをオシャレに切り取ってみせるのがフェニックスならではというか、でも普通香港はオシャレになんないでしょーよ?それがオシャレになっちゃうんだから参りました。この辺りのハンドル捌きはホントにお見事です。

世間の流行廃りに頓着なく好きな事をやって、しかもそいつがセンスいいんだから文句のつけようがない。しかしそう思えるのも元々の曲がいいから。今回も相変わらずいいメロディを書いている。きっとソングライティングがずば抜けているから何をやってもOKなんだろね。ご機嫌な曲もいいんだけど、#7『クロロフォルム』とか#9『ブルジョワ』といったスロー・ソングの組み立て方なんてホントに上手い。

でもっていつもと変わらないトーマの甘い声があるんだから、アレンジがどう変わろうと、やっぱりどこをどう切ってもフェニックスなアルバムである。

 

1. Entertainment
2. The Real Thing
3. S.O.S. in Bel Air
4. Trying to Be Cool
5. Bankrupt!
6. Drakkar Noir
7. Chloroform
8. Don’t
9. Bourgeois
10.Oblique City

フェニックス史上最も派手なアルバムだ!

Alphabetical/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Alphabetical』(2004)
(アルファベティカル/フェニックス)

フェニックスの2ndアルバム。デビュー・アルバムが様々なタイプの曲を揃えた幕の内弁当的だったのに対し、本作は随分と落ち着いたミニマルな作品。一人一人に直接配るオーダー弁当のような細やかさで、佇まいも一気に優雅。ファーストからこれを聴いた人はびっくりしただろうけど、ここにはその違和感を覆すだけの洗練さが用意されており、オシャレなフェニックスの中でも最もオシャレなアルバムとなっている。

基本的にドラムは打ち込みで、そこにベースやアコースティック及びエレクトリック・ギター、鍵盤類がかぶさってくるのだが、そのアレンジが絶妙。必要最低限の音で構築されているものの、一つ一つの音の意味付けが明確で、空白をもメロディの一部にてしまう程の丁寧なアレンジ。控えめな打ち込み音やシンセが程よいスパイスとなって聞き手の印象に幅を持たせているし、なにより非常に温もりのあるサウンドに仕上がっているのが特徴だ。

美しいメロディは彼らの武器だが、普通ならそれを更に強調したくなるもの。たとえば派手なストリングスを導入したり、アウトロを長引かせたり。それらやぼったいアレンジは一切なく、逆にこちらの気を透かすかのようにあっさりと幕を引く。10曲目のタイトル・ナンバーなどは、「あー、もっと聴きたい」と思わせる、まさに寸止めアレンジ。5thアルバム『バンクラプト!』ではダサくなる一歩手前の派手なサウンドを披露しており、このさじ加減こそがフェニックス最大の魅力なんだなと。際どいところを涼しい顔をして回避する。そんな確信犯的なところに彼等独自の美学を感じてしまう。

そしてもうひとつ彼らの秀でている点は言語感覚だろう。単語の選択のセンスがずば抜けているように思う。そこにトーマの甘い声や独特な発音(フランス人が英語を喋るとこんな風になるものなのかどうかは知らないが)が加わって、転がるよう発声されるリリックは聴いていて本当に心地よい。しかもシンプルで気負いがないところがつくづくスマートなバンドである。

初めてこのアルバムを聴いた時はエレクトリカルな要素を感じたけど、直近2作の『バンクラプト』、『ティ・アーモ』を通過した今聴いてみるとかえってアナログな温かみを感じる。この幅広さも彼らの魅力だろう。

 

1. Eveything Is Everything
2. Run Run Run
3. I’m An Actor
4. Love For Granted
5. Victim of the Crime
6. (You Can’t Blame It On) Anybody
7. Congratulations
8. If It’s Not With You
9. Holdin’ On Together
10. Diary of Alphabetical

Ti Amo/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Ti Amo』(2017)Phoenix
(ティ・アモ/フェニックス)

6枚目、2013年の『Bankrupt!』から4年ぶりのアルバムが届いた。そう、フェニックスのアルバムは届いたという言い方がしっくりくる。メイン・ストリートから少し離れたところで、自分たちのペースで音楽を奏でる。いい曲が幾つかできたから皆に紹介するよ。いつもそんな印象だ。でもしっかりとした芯があって、哲学と言うのかな、そういうものが揺るぎない。今回は前作とは一転、穏やかな音楽。しかし彼らの意志がこれほどはっきりと示されたアルバムは過去になかったのではないか。

タイトルはイタリア語で「愛している」。なんでも今回のアルバムは‘イタリアの夏のディスコ’というイメージで作られたそうだ。僕はイタリアに行ったことはないけど、頭に中に浮かんだのは、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』とか『ライフ・イズ・ビューティフル』とかのあの景色。夏の南イタリアの風景だ。そういえば最近のインタビューで面白いことを言っていた。「例えばマカロニ・ウェスタン。あれはイタリア人の解釈で撮られたウエスタン映画。そこに面白さがある。今回のアルバムで言えば僕らのヴィジョンを通したイタリア。そこには僕らを通過した歪みがある。」。これは面白い指摘だと思う。でも表現というものはすべからくそういうものかもしれないな。

彼らはベルサイユ宮殿の傍で育った根っからのパリジャン。けれどいつも英語で歌う。しかし今回は珍しくフランス語の歌詞がふんだんに出てくるし、タイトルどおりイタリア語の歌詞だってある。ということで、彼らの音楽は元々ヨーロッパ的だけど、今回は特にヨーロッパ的だ。これは意図的にそうしたというより、自然とそうなったという方が的を得ているのではないか。彼らの皮膚感覚がそうさせたのではないかなと思う。要するに今ヨーロッパは大変な時期を迎えていて、その影は彼らの日常にも落ちているということ。しかし彼らは殊更そのことについて歌ったりはしない。むしろここで歌うのは半径数キロ、生活圏の物語だ。自由を愛し、お喋りを愛し、そして愛を語るのやめない人々のちょっとした物語。そういう身近な事を歌っている。彼らが今、一番大事にしているのはそういうことなんだと思う。

そういう意味ではサウンドも穏やかだ。前作で目に付いた派手なサウンドは随分と控えめ。初期の頃の、それこそ2枚目の『Alphabetical』のような隙間を活かした音作りがなされている。派手なシンセの音が遠ざかった分、ちょっとしたギター・フレーズがよく聴こえて心地よい。ひと言で言うととても優雅。言葉もロマンティックだけど、サウンドもロマンティック。穏やかだけど物凄くエモーショナルでとてもいい感じだ。

エモーショナルと言えば、最後の曲なんてたまらない。いつまでもこういう素直な表現が出来るのは素晴らしいと思う。僕たちにもイノセンスを信じ続ける強さが必要だ。

1. “J-Boy” J-ボーイ
2. “Ti Amo” ティ・アーモ
3. “Tuttifrutti” トゥッティフルッティ
4. “Fior di Latte” フィオール・ディ・ラッテ
5. “Lovelife” ラヴライフ
6. “Goodbye Soleil” グッバイ・ソレイユ
7. “Fleur de Lys” フルール・ド・リス
8. “Role Model” ロール・モデル
9. “Via Veneto” ヴィア・ヴェネト
10. “Telefono” テレーフォノ

映像が喚起されていい感じ。
彼らの優しさと強さが入り混じったいいアルバムだ。
僕のお気に入りは#4。美しくて幸せな気分になる。