Adult Contemporary/Milo Greene 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Adult Contemporary』(2018)Milo Greene
(アダルト・コンテンポラリー/マイロ・グリーン)

 

こういう音楽がどっから生まれたんだろうと彼らのプロフィールを確認するとLA出身だという。あぁLAなのかと意外には思うものの考えてみれば、一見フォーキーな雰囲気にもかかわらず、実際は様々なアーティストを経過したような節操の無さは確かに都会的かもしれない。LAと言っても広いから、都会とは限らないけどね。

様々なアーティストを経過と言ったけど、それは本人たちも自覚しているようで、#1「Be Good to Me」のPVでは何故かロッド・スチュワートで、#2「Young at Heart」ではブルース・スプリングスティーンが登場。80年代当時の彼らのPVを編集したものになっている。公式PVかどうかは知らないけど、だとすればなかなかのユーモア。

#6「Slow」はアルバム『トンネル・オブ・ラブ』期のブルース・スプリングスティーンで、まんま『トンネル~』に入ってそうだ。ちなみにこの『トンネル~』はかの『ボーン・イン・ザ・USA』の後のアルバムで思いっ切り地味だけど割と好きなので、僕的にはツボ。他の曲の元ネタが何かは僕にはよく分からないけど、多分その辺の隙間を突いてくる感じなんだろう。冒頭と途中に挟まれる短いインストのタイトルが「Easy Listening」というのも何か示唆的。

あとこれは前にも言ったが、彼らの音楽というのは箱とか器にみたいなもんで、その中で反響される音こそがマイロ・グリーンということになる。なので、反響させるメロディーというのは、いくら~っぽくても全く問題はない。その~っぽいメロディがどのように反響されるかが大事なのだ。つまりはマイロ・グリーンというのは入れ物で、その存在性の希薄さ、存在などはなから無かったような手応えの無さこそがマイロ・グリーンということになる。勿論これは褒め言葉です。

しかしいくら~ぽかろうが、マイロ・グリーンにしかならないところが面白い。時代とは関係なく、僕たちが今いるところとは別の世界で鳴らされる音楽。ということで、まぁベル・アンド・セバスチャンみたいなもんか。デビュー時から比べると人数は減ったみたいだけど、ベルセバのように長く活動してもらいたい。

 

Track List:
1. Easy Listening Pt. 1
2. Be Good to Me
3. Young at Heart
4. Drive
5. Please Don’t
6. Slow
7. Move
8. Runaway Kind
9. Easy Listening Pt. 2
10. Your Eyes
11. Wolves
12. Worth the Wait

Milo Greene/Milo Greene 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Milo Greene』(2012)Milo Greene
(マイロ・グリーン/マイロ・グリーン)

 

米国出身の男女混成バンド。幾つかあったバンドが何となく集まって出来たという経緯もあってか、誰がボーカルだとか誰がギターだとかいう取り決めはないようだ。聴いていても特定の個人が前面に出てくるというのではなく、何となくマイロ・グリーンというバンドがぼんやりと浮かび上がってくるくらい。しかしその靄のかかったぼんやりとした感じこそがこのバンドの記名性と言っていいだろう。

まるで彼岸から聴こえてくるような、或いは人里離れたあるコミュニティから発せられているかのような音像は何を意味するのか。僕たちのリアルな生活とは程遠いファンタジックな音像は、聴き手の脳内でループするドラッグのように幻想的だ。幻想的な旋律は僕たちの奥深くにある遥か彼方の記憶と結びつき、訪れたことのない風景を僕たちの前に現出させる。

それはやはり幻想なのか。音楽と言うものは耳で聴くものであるが、この場合、体全体へ静かに浸透していく感覚がある。音楽を通して転写された風景はしかし聴き手個人のありよう。訪れたことのない風景であろうとそれが喚起されるのは、それが僕たちの体の中にあるもう一つの現実だから。つまり隠し切れない狂気は僕たちのもの。

マイロ・グリーンの音楽が薄ぼんやりと聴こえるのは心の内で鳴る音楽だから。体全体を通して浸透していく音像がいつも揺らめいているのはそのせいだ。言い換えれば、マイロ・グレーンの音楽を鳴らしているのは僕たち自身でもある。

 

Track List:
1. What’s the Matter
2. Orpheus
3. Don’t You Give Up On Me
4. Perfectly Aligned
5. Silent Way
6. 1957
7. Wooden Antlers
8. Take a Step
9. Moddison
10. Cutty Love
11. Son My Son
12. Polaroid
13. Autumn Tree