Quality Over Opinion / Louis Cole 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Quality Over Opinion』(2022年)Louis Cole 
(クオリティ・オーバー・オピニオン/ルイス・コール)
 
 
4年ぶりの新作は1時間10分、20曲の大作。才能あふれる彼らしく、今回も物凄い情報量が詰め込まれているようで、ネットで本作のレビューを検索すると事細かな記事を読むことが出来る。けれど彼の音楽の素晴らしいところはそうした専門家筋をうならせる一方で、そんなことを全く知らない我々一般リスナーが、単純にカッコエエと踊ってしまえる親しみやすさを備えていること。なので、1時間10分、計20曲であろうと大作感、というか敷居の高さはなし。身近なポップ音楽として気軽に楽しむことが出来る。
 
腕どうなってるんだ、という彼の超絶ドラムを堪能できる曲もあるし、メロウな優しい曲もある。得意のロマンティックなスローソングもあれば、エキセントリックな曲もある。20曲もあるということで、いろいろな曲が並べられているが、どっからどう聴いてもルイス・コールであるという記名性の強さ。それでいてグッタリ胃が持たれないのは、彼から染みついて離れないユーモアのセンス、というか心の余裕。リード・シングルとなった#9『I’m Tight』のミュージック・ビデオでのおふざけ感は最高だ。
 
ルイス・コールの場合、どうしてもテクニカルなところやサウンド面で語られがちだが、彼の真骨頂はメロディだと僕は思っている。いくら面白いサウンドでも曲がまずければこれだけ多くの人に支持されない。おかしみプラス大衆的な歌心が彼の音楽の肝だろう。その歌心を支えているのがボーカル力。実はルイス・コールは歌が上手い。声量で聴かせるタイプではないが、ファルセットだって全くピッチがぶれないし、高音になっても苦しさを感じさせないほどよい聴き心地はなかなかです。
 
そういえば来日するのかなと、今更ながら検索をかけてみましたが、このアルバムをフォローする来日公演はとっくにソールドアウトになってました。どれだけ凄いのか、一度、ライブを見てみたいものです。それにしても#5『Bitches』でのサム・ゲンデルとのマッチアップはカッコエエな。

Time/Louis Cole 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Time』(2018)Louis Cole
(タイム/ルイス・コール)

 

ルイス・コールです。カール・ルイスではございません。コール・ルイスでもございません。へぇ~、ルイスって苗字と名前、どっちでも使えるんやー。ま、そんなこたぁどーでもいいですね。しかしこのルイスさん、相当なお方のようでして、全ての楽器は勿論のこと、オーケストラのスコアまで書いちゃうらしく、しかもミックスやマスタリングといった最終工程まで自分でやっちゃうとのこと。ドラムに至っては元々はジャズ畑でかなりの腕前らしく、そう言われるとこのアルバムでも正確なドラムがものすんごく印象に残ります。カール・ルイスが幾つ金メダルを持っているかは知りませんが、こっちのルイスさんも相当なもんですな。私はミュージシャンを志したことはないですが、そっち方面を目指している方が聴いたらもうやる気なくしちゃうんじゃないかと。まぁそれぐらい圧倒的な才能の持ち主です。オレも名前をルイスに変えよーかな。

サウンド的にはやっぱドラムが目を引きます。テクニックをひけらかすっていうのではなく、機械のように正確にリズムを刻むっていうんですか。で叩くとこは叩くと。あとベースラインも耳に残りますね。この辺は超絶ベースと言われるサンダーキャットっていう名前が出てくるくらいですから(#10『After The Load is Blown』で作詞曲とボーカル取ってます)こっちもやっぱ意識的なんやと思ってしまいますが、ベースもルイスさんが弾いてんのかね?それとも打ち込み音でしょうか?

それとシンセによる電子音。本人がインタビューで語るところによると、子供時代はゲームばっかしていたそうで、特にスーパーファミコン!そこで流れるゲーム音楽にも夢中だったとか(インタビューでマリオカートやスターフォックスといった名前を挙げています)。んでもってスコアも書きますから曲によってはストリングス。でジャズから始めた方なので、そういう知り合いも何人か参加されているようでジャズっぽさもあったりして、#12『Trying Not To Die (feat. Dennis Hamm)』なんかがまさにそうですね。でそういうのがジャンルに縛られることなく混ぜこぜになっていて、その自由な感じがまたいいんですが、やっぱ基本はベースとドラムがぐいぐいビートを引っ張っていきますから、やっぱファンキーなんですね。凄くファンキー。なのでグルーヴ感がすんごいです。

あと大事なのがボーカルですね。元々ルイスさんはKnower(ノウアー)っていうバンドでドラムを担当しているらしいのですが、そこにはちゃんとボーカリストさんがいて(#2『When You’re Ugly』にも参加している女性の方です)ルイスさんは歌わないらしいのですが、それはなんと勿体無い!だってこんなに歌お上手なんですから。もうファルセットが素敵です。マイケル・ジャクソンです。マイケル並みに小刻みなシャウト入れてきます。でまたマイケル並みにファルセットで歌うスローソングが格別です。

でもそうは言っても基本は曲ですから、曲が悪けりゃここまで名盤にならないわけで、その点ルイスさんはソングライティングの腕前も相当なもの。ホントにスゴイ才能をお持ちなんですが、名曲揃いのこのアルバムの中でも特に目を引くのが、#13『Things』です。ちょうどこの季節にピッタリ。雪がちらつく夜にポッと灯りがともるようなアレンジで、歌詞がちょっと切ないというかグッと来ますね。サビはこんな感じです。「Things may not work out how you thought (物事は君の思ったとおりにはいかない)」。このドキっとするコーラスが時にクリスマスっぽい暖かなサウンドで何度も繰り返されるわけです。メロディを変えながら何度も何度も繰り返されるわけです。そりゃあもうこちとら思い通りにいかねーよって、しんみりしちゃうわけですよ。でそのしんみり感をフォローする次曲、#14『Night』が優しくってまたいいんですよ。

全体として醸し出す雰囲気はファンキーでスーファミでマイケルですから、やっぱ80年代でしょうか。そんなルイスさん、この年末に来日されるそうですが、参加される皆さん、間違ってもミスターみたいに「ヘイ、コール!」と呼ばないように(注.1)。コールは苗字ですからね!

注.1:1991年に東京で行われた世界陸上で、100m9秒86という当時の世界記録を樹立して優勝したカール・ルイスに、同大会でレポーターを務めていたミスターこと長嶋茂雄はスタンドから「ヘイ! カール!」とカール・ルイスが気付くまで呼びかけ続けた。この場面、私もリアルタイムでテレビを観ていましたが、テレビの前でありながら何故かハズい思いをした記憶が…。ミスター語録の一つです。

ちなみにこっちのルイスさん、手作り感満載のYoutube動画も評判だそうで、ひとつ貼り付けときます。面白いです。

Track List:
1. Weird Part of The Night
2. When You’re Ugly (feat. Genevieve Artadi)
3. Everytime
4. Phone
5. Real Life (feat. Brad Mehldau)
6. More Love Less Hate
7. Tunnels in The Air (feat. Thundercat)
8. Last Time You Went Away
9. Freaky Times
10. After The Load is Blown
11. A Little Bit More Time
12. Trying Not To Die (feat. Dennis Hamm)
13. Things
14. Night
(日本盤ボーナストラック)
15. They Find You