Category: Big Thief
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Two Hands/Big Thief 感想レビュー
洋楽レビュー:
『Two Hands』(2019)Big Thief
(トゥー・ハンズ/ビッグ・シーフ)
前作の『U.F.O.F』であれだけ激しい言葉を放っておきながら、間髪入れずリリースされた本作では自身をまるで空っぽの容器のようだと吐き捨てている。1曲目から「プラグを差して」だの「安定していない」だの挙げ句は「揺れながら歌う」だの、『U.F.O.F』と言った前作以上に地に足が着いていないじゃないか。
ところがサウンドの方はしっかりと地に足が着いているというか、前作が電気的な要素を加味していたのに対し、本作は純然たるフォーク・ロック。ほとんどが一発録りらしく、バンドとしての音像がより鮮明になっている。日本でこういうサウンドはなかなかお目にかかれないなぁ。
リリックの方は相変わらずよく分からない。最初に言ったように激情的な前作からは一変して、寄る辺なさが淡々と綴られている印象。空虚な自分、空っぽの自分に対するやるせなさ、そうしたものが綴られている気はする。と思ったが、本作の核となる#6「Shoulder」では空虚なはずの自分に宿る暴力性への気付きが語られていて、このバンドの持つ、というよりエイドリアン・レンカーの狂気が目に見える形で表に出ている。ので、やっぱ淡々とは言えないな。次の#7「Not」も相当激しいや(笑)。
その「Not」ではアウトロが長く取られていてバンドのグルーヴを堪能できる。けどちょっと長いけど。元々派手さのないバンドなので、そこを聴かせるということではないのだろう。ここは恐らく「~でない」と繰り返す歌の補完と捉えるべき。徐々に盛り上がっていくのがこの手の定番だとして、Big Thief はそういうやり方は採らない。初めから濁流のまま流れきる。
バンドには2つの傾向があるとして、一つは言葉を削っていく方法。最初に言葉ありきなんだけど、言葉を連ねずともバンドの演奏がそれを表現してくれることに気付く。でなるべく言葉で説明しきってしまわないやり方。もう一つはサウンドがなるべく言葉の邪魔をしないように心掛けること。よってバンドの演奏はギリギリまで削っていく。
どちらがどうと言うことではないが、この時点(『U.F.O.F』と『Two Hands』)での Big Thief は間違いなく後者だろう。かといってエイドリアン・レンカ―が突出している印象は受けない。Big Thief からはメンバー4人が連結しているような共同性を感じる。
ほぼ同時期に制作された『U.F.O.F』と『Two Hands』はそれぞれ天と地をイメージして作られたそうだ。なるほど、天は地に足が着かず両手は天に届かない。寄る辺ないはずだ。いずれにしてもテンションの高さは相変わらず。ソフトな日本盤ボーナス・トラックにホッとするのが正直な気持ち。
Tracklist:
1. Rock And Sing
2. Forgotten Eyes
3. The Toy
4. Two Hands
5. Those Girls
6. Shoulders
7. Not
8. Wolf
9. Replaced
10. Cut My Hair
(日本盤ボーナス・トラック)
11. Love In Mine
U.F.O.F./Big Thief 感想レビュー
洋楽レビュー:
『U.F.O.F.』(2019)Big Thief
(U.F.O.F/ビッグ・シーフ)
海外詩を読むのが好きなので、時々思い出したように手に取るのだが、思い出したように手に取ったところで、分からないものが分かるようになるわけでもない。相変わらずあの独特な表現は理解し難いのだが、その理解し難さこそが海外詩の魅力でもあるので、性懲りも無く忘れた頃にまた手を伸ばすということを繰り返している。ということで、文学的に言えば私はMかもしれない。
なんでそういう話をしたかというと、Big Thief のアルバムを今回初めて聴いたのだが、印象としては全く海外の詩集を読んだ時の感覚に非常に近しいもので、何だかよく分からないけど分からない故の魅力というか、加えてタイトルのU.F.Oの如く地に足の着かなさ、ふわふわとした所在なさ、そうしたものが何度聴いても拭えない。が、それがいい。これは怖いもの見たさだろうか。
U.F.O.Fというのはソングライターでありフロントウーマンのエイドリアン・レンカーがこさえた造語らしい。U.F.O.Friends という意味だそうだ。要するに未知なる友達。見知らぬ誰かとの出会い、またそれは自分の中にあるもう一人の自分でもあるとの意味も込められているらしいが、果たしてそうか。私にはこのアルバムは強烈な性愛への希求、心の中に激しく燃え盛る情愛の叫びにしか聴こえない。
その前に。このところほぼ毎日このアルバムを聴いているが、聴き方としてはどうやら4曲ごとに3つのパートに分けて聴くのがよいことに気が付いた。4曲でちゃんと起承転結がついているからだ。
先ず冒頭から4曲目までは自己紹介の意味もある。1曲目「Contact」の金切声で既にヤバい感じはあるが、まだ平静を保っていて、客観的な視点が保ている気はする。その結となる4曲目、「From」では「誰も私の男になれない」「誰も私の女になれない」と歌うが実のところは「私は誰の男にも誰の女にもなれない」という自己拒絶。ここでこの人物像が揺るぎなく明確に立ち上がってくる。
次のパート、5曲目から8曲目はそうした自分がなんとか実人生を歩む様が捉えられている。「From」で一瞬我を失いかけた自我が「Open Desert」では落ち着きを取り戻している(ちなみにこの曲のメロディはとても美しい)。このパートの4曲は弾き語りがあったりジャズっぽかったりウィルコばりのユーモアを忍ばせたりと曲想も豊か。しかし詩の内容を追っていくと、「Orange」では「lies,lies,lies / lies in her eyes」と言う癖に次の「Century」では「we have same power」と歌っており、他者との距離感、接近しては離れる揺れ動き、曲想がそうであるように心が大きく揺れ動く様が描かれている。
そして最後、情念が渦巻くのは9曲目から。「Betsy」では心が完全に特定の人に持って行かれる様を追い、「Terminal Paradise」は愛の告白だ。圧巻は「Jenni」。「Jenni in my bedroom」と繰り返すサウンドはシューゲイズ故に尚の事その情念が立ち上がる。「Jenni in my bedroom」と心の中で繰り返し続ける主人公。これは怖い話か何かか。とか言いつつ、これは誰にもある普遍的な情念でもある。そして最終曲、「Magic Dealer」で何事も無かったように終わる。
なんでもなく見える人でも心の中は色々と渦巻いているもの。私だって心の中なんて人に言えたものじゃない。そういうアルバムではないだろうか。それにしても、1曲目の「Contact」の最後に繰り返される金切声は怖い。
Tracklist:
1. Contact
2. UFOF
3. Cattails
4. From
5. Open Desert
6. Orange
7. Century
8. Strange
9. Betsy
10. Terminal Paradise
11. Jenni
12. Magic Dealer