洋楽レビュー:
『Hyperspace』(2019) Beck
(ハイパースペース/ベック)
ベックに元気がない。あれだけ訳の分からないリリックがお得意のベックがなんともストレートな歌詞を書いている。「僕は待っている」というセリフが何度も出てくるぞ。ベックさん、あなたは一体何を待っているんだ?
全方位方の前作『カラーズ』から一転、ベックは『ハイパースペース』という超空間へ逃げ込んだ。どうも逃げ込んだという表現が似つかわしい。華々しく何かをぶちあげるというより、こういう時は無理せず大人しくしておこうということか。てことで選んだ相棒があの『ハッピー』なファレル・ウィリアムズ。
やね。せめてサウンドだけでもポップにということでしょうか、けどね。私はあんまりファレル・サウンドが得意ではありません。ミーハーにも当時かの『ハッピー』収録のアルバムを購入したのはいいのですがあんまし私には馴染まなかったのです。
てことで今回のアルバム。曲はいいです。ファレルと組んだということでソングライティングも共同かもしれませんが、曲はスムーズです。ただベックならではのぎこちなさがなんとなく希薄かなと。
それとサウンドは好みが分かれるかもしれません、ちょっとシンセ強めですし。やっぱ所在なげですね。フワフワ浮いてる感じはあります。『Saw Lightning』なんてアルバム随一のアッパーな曲調ですけど、何故かそこまで気分がアガル感じはしないんです。
で思い出すのは、ていうか自分で書いたレビューですけど先日ウィルコの『オード・トゥ・ジョイ』の感想をこのブログに書いたのですが、確かそこにも今回のウィルコは所在なげだなぁみたいなことを書きまして。やっぱ今世界はネガティブな感じじゃないですか。どっちかっていうと上手くいかねぇやっていう。そこでこのベテラン二組はけど何とかなるよってポジティブなメッセージを発するのではなく、若干しょんぼり気味に揃って抗うんじゃなく素直に上手くいかねぇやって歌ってる。これ、どういうことでしょうか?
どっちもアメリカ人ですけど、やっぱ思ってる以上にアメリカのリベラルな人々は落ち込んでるんだなぁって。素直にそういう表現をしていまう。特にいろんな事を見てきたベテランたちがそういう表現をしていまうってのは敢えてなのか諦めなのか分からないですけど、そういう側面もあるのかなって思います。
勿論ベックさんですから、よいアルバムです。ボーナス・トラック入れてトータル42分強ですがすいすいっと心地よく最後まで聴けちゃいます。さっきも言いましたけど曲は綺麗だしこのまとめ方は流石だと思います。でもやっぱり所在なげなんですね。それは歌詞のせいもあるけど、フワフワとしたサウンドの影響も大きいのかな。
だからまぁ、もうちょっと違うサウンドだと印象も違うのかれしれないけど、それじゃあファレルと組んだ意味はないし、これはいろんなプロジェクトを常に同時進行しているベックが前々からやりたかったことだったみたいだしそれじゃそれでいいんだけど、余りにもスムーズ過ぎてなんか私の好みで言うとちょっと違うかなって(笑)。
だからなんだかんだ言ってボーナス・トラックの『Saw Lightning(free style)』が気持ちいいというか、ドンドンっていうあれはバスドラでしょうか。それとブルースハープとベックのボーカルだけでグイグイ押していく感じがやっぱずば抜けてかっこいいと思ってしまいます。