I Quit / Haim 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『I Quit』Haim(2025年)
(アイ・クイット/ハイム) 
 
 
音楽に限らず、芸術は多様性から生まれる。皆が同じことを考え、同じことを感じているのであれば、なにも個人として表現する必要はないだろう。私はこう思う、私はこう感じる。固有のものの見方があるから作家は何かを表現するのだろうし、芸術を鑑賞することはそうした作家固有のものの見方を楽しむ行為とも言える。
 
このところ思うのは、僕はただ単に音楽や文学や絵画が好きなだけだったけど、知らず知らずのうちに芸術を通して多様性を学んでいったような気がしてならないということ。もしこれらが好きでなかったら、きっと今のようなものの見方は育まれなかったかもしれない。
 
ポップでおしゃれな作風でデビューしたハイムだが、キャリアを重ねる毎に女性として、いやひとりの人間としてのあるべき態度についての言及が増えてきた。なんだかんだと女性が不利益を被る男社会に対して、私がこうする、私が決める、といった主体的な態度は多くのリスナーに影響を与えていることだと思う。今やエンパワメントするロックバンドの筆頭ではないだろうか。
 
聴いてて清々しいのは、誰かを糾弾するということではなく、自然体でそれらの主張をしている点で、当たり前のことを当たり前に歌い、女とか男とかではなく自分たちのやりたいようにパフォーマンスをしているだけだという態度。今回のアルバムでは特にそれが顕著で、例えば大胆な表現のミュージック・ビデオにおいても、あくまでも私たちが主導しているという意思が感じられ、それはやっぱりカッコいいなと思う。
 
本作の大きな転換点はプロデューサーが変わったこと。ずっと一緒にやってきたアリエル・リヒトシェイドから元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムがダニエルと共に本作のプロデューサーを務めている。サウンドはよりアーシーなアメリカン・ロックに近寄ってきているが、元々の素養があるので、おしゃれで洗練された部分は相変わらず。その上でよりシンプルで直接的なロックが前面に立った感じだ。ダニエルのギター・ソロが聴けるのが嬉しい。#7『 The farm』や#15『Now it’s time』のいかにもヴァンパイア・ウィークエンドなピアノ・フレーズにも顔がほころぶ。
 
本作では長女エスティと三女アラナもリード・ボーカルを取っている。#11『Try to feel my pain』ではダニエルがボーカルで、続く#12『Spinningではアラナ、そして#13『Cry』ではエスティと、それぞれの個人的な体験に基づくと思われる曲がそれぞれのボーカルで歌われ、そのまま三者が交代でボーカルをとる#14『Blood on the street』へ続く流れが最高だ。
 
ハイム独特のリズム感を引き立てている絶妙な言葉の載せ方はダニエル独自のものだと思っていたが、エスティもアラナも抜群の体内時計で言葉をフックさせてくる。さすが音楽一家だ。ダニエルのロックな歌いっぷりに加え、エスティの落ち着いた声、アラナの甘ったるい声もいい味を出しているので、今後もこのスタイルは続けて欲しいなと思う。
 
プロデューサーが変わっただけじゃなく、アルバム・タイトル(I Quit = やめた)に象徴されるような意識の変化もあったようで、アルバム全体に感じる清々しさは今までになかったもの。新しい扉をまた開いたような感じはする。三人の並列感がより際立ったアルバムにもなっていて、彼女たちの物事への向かい方もより明確になったようだ。勿論今回のアルバムからも僕は影響を受けている。
 
 

Woman In Music Pt.III / Haim 感想レビュー

洋楽レビュー:

「Woman In Music Pt.III 」 (2020年) Haim
(ウーマン・イン・ミュージック Pt.III / ハイム)

 

ハイム三姉妹、安定の三作目。とはいえ前作から三年のインターバルだから、本人たちにとっては安定なんて生易しいものではなかったのだろう。けれどここで第一期というか彼女たちの音楽が一息ついた感じはする。

僕はハイムの言語感覚が好きだ。独特のリズムに乗せて畳み掛けていくリリック、今回で言うと「I Know Alone」とか「Now I ´m In It」なんてすごく分かりやすいハイム節。こういうのを聴くと思わずにやけてしまう。歌詞の中身はヘビーなんだけどね。

てことでハイムはデビューの時からもうソングライティングは完成されている。それぞれが曲を書けてボーカルを取れて色々な楽器を演奏できる中、それぞれに特徴はあって、でも姉妹だからやっぱり同じ方向に顔が向く。この阿吽の呼吸感とさっき言ったリズム感がハイム最大のオリジナリティー。

だから後はどう肉付けしていくかということ。そこを担うのがアリエル・リヒトシェイドとロスタム・バトマングリで、もうこのコラボは五人でハイムと言っていいぐらい親密なもの。だからちょっとヴァンパイア・ウィークエンドぽい、というか昨年の『Father of The Bride』の流れを感じてしまうところも所々。次女のダニエルも参加してたしね。

思えばハイムの1stからは随分と洗練されてきました。バックに流れるちょっとしたサウンドは流石アリエルにロスタムで超何気なく超オシャレ。今回はラッパの音が印象的かな。そして時おり前に出てくるダニエルのギター・ソロ。そうそう今回はフィーチャリング彼女のギターってところもあってこれが物凄くカッコいい。いかにもなマッチョなギターじゃなくて自然体で鳴らされるダニエルのギターも本作の聴きどころ。

そうそうここ数年、#MeTooとかジェンダーに関する動きが活発でしょ?彼女たちはやっぱし三姉妹ロッカーですから、色々とね、デビュー以来やな事はあったみたいです。でそのことを自分たちの日常に即して表現している。例えば「The Steps」では「私は自分のお金を稼ぐために毎朝起きてる」、「同じベッドで一緒に寝てるからってあなたの助けは要らないわ」、「そこんとこ、ちゃんと分かってる?分かってないでしょベイビー」って。

同時期にリリースされたフィオナ・アップルの『Fetch The Bolt Cutters』があちこちで絶賛されてますけど、あっちが誰が聴いても分かる化け物みたいな作品だとすれば、こっちの『Woman In Music Pt.III』は誰が聴いても革新性を感じないと思うんです。でも僕はフィオナに負けないぐらいこの作品が好きです。何故ならここにも彼女たちのリアルがあるから。

彼女たちは声高に叫ばない。でもいつも変わらないトーンで身の回りの大事なことを歌っている。個人的なことを歌うことが世界を歌うことになる。誰かがそんな事を言っていたけど、それは一番難しいこと。彼女たちの歌には彼女たちの顔がちゃんと見えて、その向こうに世界が写っている。ごく自然体でこういうことが出来るのがハイムの凄みではないでしょうか。

このアルバムでは特に「Gasoline」と「Summer Girl」が好きです。ちょっと気が早いけど、次のアルバムではアリエルとロスタムには少し控えてもらって、三姉妹だけで作ったアルバムを聴きたいな。三姉妹で作ったミニマルな歌を通して聴こえる世界の声を感じ取りたい。

全国紙に派手なヘッドラインを出していくということではなく、言ってみれば地方紙というか、けれどその方がかえって真実を照らし出しているという側面もある。そしてそれはとても大切なこと。僕にとってハイムはそんなイメージです。

Days Are Gone/Haim 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Days Are Gone 』(2013)Haim
(デイズ・アー・ゴーン/ハイム)

 

先日買い物をしていたら、あるアパレル店でハイムが流れていた。しばらくそこにいると、アルバムを通して流していたので恐らく店員の好みなんだろう。ふむふむ、なかなかいい趣味をしている。僕は今後もその店に行こうと思った。てことでハイム。2013年のデビュー作です。

ハイムは米国、カリフォルニアの3人姉妹。なんでも両親もロック・バンドを組んでいたという音楽一家だそうで、幼少のころから家のドラム・セットを競って叩いていたらしい。ライブ映像を観ると、ステージに太鼓を横並びにして3人で叩きまくるなんてのもあって、なかなか個性的。でもこれが結構重要でハイムはリズムなんだと。それもベースじゃなく打楽器のリズム。改めてデビュー作を聴いてみると、最初からそういう記名性が感じられて面白い。

メイン・ボーカルを取ってるのは次女のダニエル・ハイム。彼女はリード・ギターも担当している。ちなみにギターの腕前も相当なものらしく、ストロークスのジュリアン・カサブランカスに呼ばれたり、2018年のフジ・ロックではヴァンパイア・ウィークエンドのステージにゲストとして参加している。

で彼女のボーカルはさっき言ったようにリズムが内包されているから、跳び跳ねていて、リリックもそれを意識してか韻やアクセントを効かせまくり。可愛く歌おうなんて気はさらさらない男前な声も相まって、聴いていてホントに心地よい。甘い#5『Honey & I』だろうが、リズムが内から突いて出てくるもんだから跳ねちゃってしょうがない。メロディとリリックが完全に一体化しています。

コンマ何秒かのタッチでメロディに乗っけてく声はリズム・マシーンが体に内包されているかのようで、そのメイド・イン・ハイム家とも言うべきリズム・マシーンは3姉妹それぞれに埋め込まれているもんだから完全に同期している。長女エスティのベースと3女アラナのギター、そしてコーラスまでもが折り重なる阿吽の呼吸感は姉妹ならではだ。

勿論、キャッチーな曲を書くっていうソングライティングの部分が基本にはあるけれど、曲もリズムに導かれている感じ。だからゆったりした曲でも走っている。単にスピードではない走ってく感覚が心地良い。洗練されたサウンドの2ndアルバムも大好きだけど、3姉妹だけで演奏しているかのような極力詰め込まないサウンドのこのデビュー・アルバムも素敵だ。

モデルみたいにスラッとしてグッド・ルッキンな3姉妹だけど、ガールズ・バンドと一括りにしちゃいけない。男前で小気味よく、ガッツリ恰好いいロック・バンドだ。

 

Track List:
1. Falling
2. Forever
3. The Wire
4. If I Could Change Your Mind
5. Honey & I
6. Don’t Save Me
7. Days Are Gone
8. My Song 5
9. Go Slow
10. Let Me Go
11. Running If You Call My Name

Something To Tell You/Haim 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Something To Tell You』(2017) Haim
(サムシング・テル・ユー/ハイム)

リリックが転がってくのが好きだ。アクセントとかライミングとかメロディが折り重なって、歌詞カードが目で追えないぐらいの勢いで転がっていく。ハイムの新しいアルバムでいうと、リード・トラックの『Want You Back』なんてまさにそんな感じ。サビの最後で「I’ll take the fall and the fault in us / I’ll give you all the love I never gave before I left you…」と転がっていくところなんか最高だ。

ハイム3姉妹の2枚目のアルバムがようやく出た。4年ぶりだそうだ。才能の赴くまま、割とあっけらかんと作ってしまいそうなイメージだけど、意外とそうでもなかったのね。で届けられた新作。素晴らしいのなんのって。僕は勝手にハイムの2枚目は彼女たちの趣味や嗜好に引っ張られた割と重たい感じになるのかなと思っていたが、何のことはない、1stを更にパワー・アップした軽やかなポップ・アルバム。よりがっしりとしたソングライティングに、完成度がぐぐぐいっと高まったサウンド・プロダクション。2枚目のジンクスなんてどこ吹く風だ。

冒頭に述べたように僕はハイムの言葉の転がし方がかなり好きだ。言葉とメロディは一体であるという感覚。この辺り、ハイムはかなり意識的で、ボーカルのダニエルの促音を強く弾く歌い方や、マイケル・ジャクソンばりの「ハッ」とか「アッ」というような合いの手がより音楽としての一体感が生んでいる。そうだな、3人がいつもどこかでリズムを取っているようなイメージもある。ハイムの最大の特徴はそうした言語感覚も含めた独特のリズム感かもしれない。いつも背後に幹のぶっといリズムを有しているという感覚。子供時代、家にあるドラム・セットで3姉妹が競い合っていたというエピソードそのままに、ライヴでもしょっちゅう肩を並べて太鼓を叩いているが、彼女たちの芯はやっぱここにあるのかもしれない。

それと忘れてならないのが今回のサウンド・プロダクション。1stと比べて格段にパワー・アップしている。1stの隙間を活かしたサウンドもあれはあれで良かったんだけど、今回は更にグイッと行きますよという気持ちの表れか、随分とがっしりと作り込まれていて、例えば3曲目の『Little of Your Love』なんて大陸的でアメリカンな大らかさがよく出てる。4曲目の『Ready For You』のプログラミングとかサビのゴスペル風なんかもイカすし、8曲目の『Found It In Silence』のストリングスを効かせたアレンジも凄くかっこいいし、総じて完成度は格段にアップ。プロデューサーのアリエル・レヒトシェイドと元ヴァンパイア・ウェークエンドのロスタム。いい仕事しとります。

今回のアルバムでは彼女たちの持ち味である米国ウェスト・コースト風のノリに80年代の色味が1stよりも濃く反映されている。きっと彼女たちが家で聴いていた音楽の影響をより素直に表したのだろう。先ほどのドラムの話もそうだが、彼女たちにとってホームはとても大事なもので、その辺りがこのアルバムから感じられる懐かしさにも繋がってくるのかもしれない。やっぱり姉妹というのは大きい。あうんの呼吸というか、気付いたらハーモニーになっているみたいなところもやっぱ凄いなと思う。

最後にもう一つ付け加えたいのは同時期デビューのTHE1975との類似性だ。キャラ的には対照的な両者だが、昨年出たTHE1975の2枚目とこのハイムの2枚目はなんだかだぶって聴こえてしまう。確か1stの時もそんな印象を受けたけど、そういうコメントは聞いたことが無いのでそう思ってんのは僕だけかもですが…。スタイルは違うけど、80’Sへの接近とか言葉の転がし方が似てると思うんだけどな。

ちなみに真っ先に公開された、映画監督のポール・トーマス・アンダーソンが録った#10『Right Now』のスタジオ・ライブ版が素晴らしい。彼女たちのライヴはカッコイイもんな。一度見てみたいぞ!

 

1. Want You Back
2. Nothing’s Wrong
3. Little of Your Love
4. Ready For You
5. Something To Tell You
6. You Never Knew
7. Kept Me Crying
8. Found It In Silence
9. Walking Away
10. Right Now
11. Night So Long