その他雑感:
「寅さんはなぜ逃げるのか」
大学時代のバイト先に中年の絵描きさんがいて、 無口な人で自身の事は余り語りたがらなかったけど、 だからこそ絵描きとしての矜持がそこにあったような気がした。 僕自身も芸術家になりたかったけどそこまでの覚悟や行動力がなく てっていう当時の心境も相まって、 芸術家の態度というのはどうあるべきかっていうのが僕の原風景と してそこにある。
現在BSテレ東で毎週土曜日に放送している『男はつらいよ』 シリーズを観ていて、 なんで寅さんは好きな人と一緒になんないのかなと考えていたら、 ふと大学時代に出会った絵描きさんのことを思い出した。 その人はいかにも絵描きっぽい雰囲気の渋い人だったから、 色っぽい話の一つや二つあったろうにと思うけど、 やっぱりその人も寅さん同様独り身だった。
多分、これは僕の想像だけど、 寅さんもその絵描きさんも芸術家なんだな、ま、 寅さんの場合は風来坊だけど。 芸術家であったり風来坊であることが何よりも優先される。 それは単にあぁオレもうちょっと自由が欲しいなとかじゃなく、 もう哲学なんですね、生きる上での根幹っていうか。
そういうの、誰だって多少なりともあるとは思いますけど、 ただ実際は秤にかけてたとえ縛りがあっても縛られる方、 例えば結婚とか(笑)、 まあ要するにそっちの欲に流れてしまうわけですけど、 中には流されてかない人もいて、それは多分欲の付け所が違うんです。
とはいえ寅さんなんて年に2回も恋をして、 しかもたまに綺麗な人にしなだれかかられたりするわけですから、 それでも堪えちゃう寅さんというのは昭和でありながらも令和のア スリートみたいな自己管理力!あ、そうでない人もいるか(笑)。
なんにしろ寅さんにしても絵描きさんにしても確固たる信念を持っ ていて、 ただ信念って言ったって人生の折々でそれを揺るがせる出来事は何 度もあっただろうし、 それでもそっち側に居続けたというのはやっぱりね。 信念って言うと大げさかもしれないですけど、 簡単に言えば世帯持つのが怖いというか、 それをしちゃうと今までの自分はなんだったのかというのもあるだ ろうし、 やっぱ一番大きいのはそれによって何か失ってしまうんじゃないか っていう恐怖、 だからまぁその辺は人並み以上に誠実で、ある意味真面目なんだろう と思います。 どっちにしても渡世人だろうと芸術家だろうと気安く名乗れるもん じゃないなと思います。
そういえばその絵描きさん、こんなこと言ってました。 友達からお前は自由でいいなぁと言われるけど、 俺からしたらそっちこそ家族を持ってうらやましいよって。 お互い無いものねだりなんだよね、って。