ブック・レビュー:
『この世界の片隅に』 こうの史代
ずっと前から気になっていた『この世界の片隅に』。友達が買ったってんで、そいじゃあオレにも貸してよってことで幸運にも読むことが出来ました。マンガだし上・中・下、さらーっと読めちゃうかなと思っていたけど、そうはいかんよね。読んでは戻り、戻っては読む、なんかすずさんみたいにゆ~っくりとページ開いていくのが、この本の読み方なのかなぁと。映画もドラマも観てなかったけど、今さらどっちも観たくなりました。遅いっちゅうねん(笑)。
冒頭からしばらくは日常の風景が流れてゆくだけなんだけど、僕たちの日常が淡々としていそうで実はそうではないのと同じで、いつも心が少しずつ動いていくような、でも勿論そんな堅苦しいものではなくて、それは本っ当に素晴らしい絵を描くこうの史代さんの絵の柔らかさもあると思うんだけど、そういうものに優しく導かれて自分もその中に入っていくような、柔らかいんだけど力強いとでもいうような、慌ただしく波風は立たないんだけど、大きく濃くゆっくりと柔らかい波が進んでいくみたいな感じで、共に読みすすんでいるような気はします。
だから、とりあえず最後までゆ~っくりと読みはしたけど、決して読み終えたって感じはしなくて、またしばらくしたら読みたいな~と思うだろうし、それでもやっぱり何回読んでも読み終えたなぁとは思わないだろうし、いつ読んでも途中からお邪魔しま~すっていうか、この物語はそうやっていつまでも続いていくものだと思います。
それはやっぱ地続きだからで、地続きなんて言うとあの時代と今は全然違うんだから同じように考えないでくださいとピシャッと言われそうだけど、僕にはそうは思えなくて、確かに時代背景は違うけど、僕たちだって一応はちゃんと真面目に生きているし、そういうささやかな営みがある以上はそれを守りたいっていうか、守りたいって言うと大げさだけど、悲しい出来事はそういうささやかな日常にすっと滑り込んでくる訳だから、そこのところはやっぱ同じなのかもしれないって。
だから玉音放送の後、すずさんの印象的な場面があって、それは急にエネルギーが立ち上がるような強烈な場面なんだけど、それも割となんかすぅっと入ってくる感じで、恐らくこの漫画を読む前にそのセリフだけを聞いていたら、いまひとつ飲み込めなかったかもしれないけど、上巻中巻下巻と読む進む中で表れるすずさんの言葉というのは自然に入ってくるのだな。でも自然に入ってくるからといって理解したとか軽く流れてしまうってことではなくて、重い言葉なんだけど、ていうか重い言葉とは言いたくはなくて、それは僕たちへと続いていく言葉でもあるわけだから、そこを情緒的に捉えるのはヤダなっていう。肯定するとか否定するとかってんでもなく、そこはちゃんと落ち着いて飲み込みたいというか、そこはこのこうの史代さんの絵とストーリーの力で多分ちゃんと飲み込ませてもらえたと思います。
とまぁもっともらしいことを言っていますが、またしばらくして読んだら違った感想も出てくるだろうし、これはこうだということではなく、その折々に頷きながら長く読んでいくものなのかなぁとは思います。
僕にも片隅があって、皆にも片隅があって。人の片隅に触れたいなんて図々しい話だけど、たまにはね、すずさん、またあんた達の片隅に触れさせてくれんさいね、って(笑)。