クライムズ・オブ・ザ・フューチャー(2023年)感想

フィルム・レビュー:

クライムズ・オブ・ザ・フューチャー / Crimes of the Future(2023年)

 

この手の映画を観るのは初めてだったが、個人的にはいわゆるディストピアもの含め近未来SF小説は好きなので、わりと違和感なく映画の世界に入りこめた。一部、目を逸らせたくなる場面もあるかもとの事前情報もあり少し身構えていたが、そこは作品世界を踏まえての表現、つまり敢えて人工的に見える作りになっていたので、特に気持ち悪いことはなかった。グロいけど生々しくない。

この映画は環境問題から着想を得たということだが、進化した人間がプラスチック(有害物質)を食べられるようになるというのはブラックユーモア以外の何ものでもない。ということで真面目に見れば、眉間に皺を寄せて観ることもできるが、一方でなんじゃこれは的なユーモアの感覚も忘れてはいけない。腹を開く器具が手の形を模していたり、それを操作するリモコンが気持ち悪い形状をしているのもその延長。

要するにデヴィッド・クローネンバーグ監督としては思いついたワクワクするアイデアを何とか形にしたいと考えた時に、環境問題とくっ付けることでこれ更に面白く出来るやん、となったんじゃないかという穿った見方もできる。高尚な環境問題を考える映画と言うより、新しい臓器ができちゃう体とか、痛みがなくなった人間とか、外傷に性的な興奮を覚えてしまうとかいうデヴィッド・クローネンバーグの世界を楽しむ映画というのが先にある、という理解でよいのではないか。

とは言え、例えばビーガンとか環境保護団体とかそれ自体は良い事であっても度が過ぎると恐ろしい方へ向かってしまう暴力性、或いはそうした思想などお構いなしの狂った人々、常識的だと思える人々さえ抗えないものなどなど、我々の日常とリンクする部分も多く、笑うに笑えない作品であることも確か。生真面目さや下らなさや恐ろしさをどう配分するかは観た人それぞれに異なると思うが、最後のソールの表情をポジティブに捉えることはなかなか難しい。

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