『それしかないわけないでしょう』の「すらい」について

ブック・レビュー:
 
『それしかないわけないでしょう』ヨシタケシンスケ
 
 
ヨシタケシンスケの絵本『それしかないわけないでしょう』に出てくる女の子は世の中に好きと嫌いしかないのはおかしい、好きと嫌いの間に「すらい」というのがあってもいいはずだと、父親に向かって「おとうさんなんて大すらい!」と言う。この一コマが非常に可笑しくってこちらは勿論大好きなのだが、考えてみれば何事に対しても「すらい」が圧倒的に多く、好きや嫌いよりも人の数だけ、或いは物事の数だけ「すらい」が存在する。
 
現代詩という文学がこの世にあることをご存じの方は少ないかもしれないが、現代詩というのはまさにこの「すらい」を行ったり来たりする様であって、詩というと何か良いことや励みになることを言うみたいなイメージをお持ちの方がいて、とかく明確な言葉を期待されているのだが、どちらかと言うとどちらかを言うのではなく、どちらかではないことを言葉にしたのが詩である以上、需要と供給が合わないのも致し方ないところ。
 
ただこちらの心構えとしては、どちらかを明確に言われるとそれに対する態度の取りようもあるのだが、はっきりとした物言いではない以上、それをどう捉えたらよいのか分からず、つまりついはっきりしろよと言いたくなる。ただそれに対しては、はっきりしないことを書いていますと言うよりは、そこにあるがままを書いています、無理にはっきりさせようとはせずに、そこにあるがままを書くようなるべく努めていますと言うしかない
 
そこをあくまでも分かるようにしてよと親切に食いついてくれる人は一切いないのだが、全く別の角度から「すらい」という言葉で明確に言ってのけ、何気に分からないものを分かる表現に、ていうか面白く変換してしまえるヨシタケシンスケはやはり恐るべし。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)