Pressure Machine / The Killers 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Pressure Machine』(2021年)The Killers
(プレッシャー・マシーン/ザ・キラーズ)
 
 
2年連続で新作が届いた。コロナ禍で単に時間があったということもあるだろうけど、そんなことよりも曲が出来て仕方がないという方が本当のような気もする。デビューして20年、今はとても良い状態なのだと思います。なんにしても好きなバンドの新作が2年続けて聴けるのは嬉しいことです。
 
ブランドン・フラワーズがブルース・スプリングスティーンの大ファンだというのは有名なところ。今までもスプリングスティーン的な世界を時折覗かせてはいたけど、今回はそちらへ思い切り振りきったアルバムです。と言ってもそれはサウンド的な、Eストリート・バンド的なということではなく、歌詞の方ですね。
 
てことで歌詞が圧倒的に素晴らしい。元々、ストーリー・テリングを用いた歌詞はブランドンの真骨頂でしたが、アメリカン・ドリームからは遠い人々の存在をこれだけはっきりと浮かべ上がらせる歌詞は驚き。2曲目に『Quiet Town』という曲がありますが、そんな静かな町で起きる小さな物語。人生に訪れるちょっとした闇に引き込まれてしまった人々、或いは引き込まれそうな人々を丁寧に描いています。ブランドンさん、こんな深い内容の話を書けるんですね。ちょっと見直しました。ちなみに『Quiet Town』はスプリングスティーンというより、ジョン・メレンキャンプっぽいかな。
 
スプリングスティーンに『ウェスタン・スターズ』(2019年)というアルバムがあって、それは自身の年齢と照らし合わせるように晩年を迎えた市井の人々の姿を捉えたものなんですけど、この『プレッシャー・マシーン』はそのキラーズ版というか、ブランドンもそろそろ不惑を迎えて色々思うところはあるのかもしれないですね。ていうかアラフィフの私にも身のつまされる内容ですな、こりゃ。
 
あと大事なのはスプリングスティーンにしてもブランドンにしても無理に風呂敷を広げないというか、世の中多様性云々で今的に言えばジェンダーとか人種とかそういうところへ目配せした方が受けるのかもしれないけど、そういう視点ではなく自分の身の回りで起きていることを丹念に描いているというところに誠実さを感じますね。
 
歌詞に対する言及ばかりになってますけど、メロディも凄くいいです今回。自身のストーリー・テリングに導かれたのかどうか分かりませんが、詩の内容に沿った自然で美しいメロディ。確かに詩は素晴らしいですけど、そこにメロディーが加わることで景色がより立体的になりますね。ブランドン、凄い才能持った方なんだなぁと改めて思いました。そこに鳴るギターがまたいいんだ。
 
2年連続と言っても今回は少し毛色が違う。ていうかこれまでのキラーズにはなかった作品。ただ、こういうことが出来るのも前作『インプロディング・ザ・ミラージュ』(2020年)でのこれぞキラーズといった成果があってこそ。次のアルバムももう進行中だとか。今の彼らは第二期のクリエイティブなピークにあるのかもしれないな。
 
追記:ほとんどの曲の冒頭にアルバムの舞台ともなっている、ユタ州の人々のインタビューが曲のイントロダクションのような形で収録されています。歌詞カードにこの部分の記載はないですが、ネット検索をするとすぐに見つけることができます。そんなに難しい英語ばかりでもないので、ここの部分で何を言っているのかを知ると、このアルバムの聴こえ方はまた違ったものになるのかなと思います。ちなみにここはすべてが完成してから最後に付け足したそうです。

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