Folklore / Taylor Swift 感想レビュー

洋楽レビュー:
 
『Folklore』(2020年)Taylor Swift
(フォークロア/テイラー・スウィフト)
 
 
なんでもステイホーム中にレーベルに内緒で制作したんだとか。プロデューサーはザ・ナショナルのアーロン・デスナーで17曲中11曲を手掛けている。テイラーさんは以前から一緒にやってみたいと思っていたらしく、けれどザ・ナショナルというとインディど真ん中の人なので、1曲ならまだしも通常だとレコード会社がうんとは言わない。そこで内緒で(しかもリモートで!)作ったそうです。
 
しかもアーロンさんはこれもUSインディのトップランナーであるボン・イヴェールに声をかけ、「exile」という曲で共演を果たしている。まさかテイラーさんのアルバムでジャスティン・ヴァーノンの声が聴けると思わなかった。とても新鮮な驚き。
 
以前から気になっていたとはいえ、このコロナ禍にあって アーロン・デスナーやボン・イヴェールと共演し、静謐で内証的なサウンドを選ぶというのはやっぱりテイラーさん自身に世を見る目の確かさというか、今何をすれば当たるかという、そういう下世話な話ではないのだろうけど、結果的に人々が求める作品をジャストに出してしまえるのは無意識的にせよ、やっぱり凄い人だなぁと思わざるを得ない。
 
肝心の曲の方は勿論ばっちりで、このところは派手な衣装に身を包んで、ポップなダンス・ナンバーを披露するといった印象が強くなった気がするけど、僕が最初にテイラーさんを知ったのはアコースティック・ギターを抱えて歌う「Fifteen」なので、基本はそっちの人なんだという気持ちの方が強い。案外そういうファンは多いのではないか。恐らくテイラーさんも自身のそういう地味だけど基本となるストロング・ポイントを理解していたはずで、けれどこれだけ巨大になると自分の思いだけでは済まない部分も多いわけで、そこをこの状況を逆手にとって密かに作家性の強い作品を出してしまうというのはなかなかしたたかというか、かっこええ話や。
 
アルバムはもう絶賛の嵐で、ここにきてテイラーさんのベストではないかとさえ言われている。卓越したソングライターである彼女があのアーロン・デスナーのサウンドで歌うのだから、間違いないに決まっている。彼女本来の持ち味であるメロディの良さが歌に注力したサウンドをバックに従え、初期の作品のように前に押し出されている。
 
ということでテイラーさんの曲がくっきりと浮かび上がってくるんだけど、思うのは盛り上げるのがすごく上手いなと。派手なサウンドではないんだけど、曲自体がそういう大波小波を内包しているから後半にかけて、特にブリッジでの盛り上がりが半端ない。「august」なんてすんごいです。どういうサウンドになろうがポップなところなところからは離れられない体なんでしょうか。てことで命名します。テイラーさん、あんたはブリッジの女王や。
 
プラス、今回はとりわけタイトルに『フォークロア』とあるように、’だれかの物語’にチャレンジしたということで、いつもの’わたしの話’ではない切り口のリリックも魅力。「the last great american dynasty」でのブルース・スプリングスティーンばりの遠い過去に思いを馳せたストーリー・テリングには思わず鳥肌が立ってしまった。過去の戦争から現在の医療従事者へと繋げる「epiphany」も素晴らしいし、ポップなところで言うと17歳の男の子になって歌う「betty」も面白い。けれどなんとなく物語にイントゥしていけないのは何故だろうか。
 
それはやっぱり’わたしの話’が完全に抜け切らないところで、例えば さっきの「the last great american dynasty」は凄くいいのに最後に「その家を私が買った」というリリックで締めくくっちゃうのはちょっとなぁと。あと「invisible strings」での「アメリカのシンガーに似てますね」と言われたってリリックもそれあんさんの話やないかと。巷で言われているほど’民間伝承’な歌ということではないような気もしますが、それも過去の作品と比べればということでしょうか。
 
ただやっぱりここは’だれかの物語’に徹底して欲しかったかな。そういう煌めきは随所にありますから。あぁ、「その家を私が買った」の一文さえなけりゃなー。
 
それと彼女はやっぱり声が強いですから、なかなか人の歌になり切れないというか、考えてみればまだ30才になったばかりということなので、そこをあんまり求めてもなってところはあります。僕がテイラーさんのアルバムを買うのは『フィアレス』以来、十数年ぶりなんですけど、更に10年経つとまたその辺も変わっているのかもしれません。 
 
僕にとっては新譜を追いかける人ではないですけど、これだけ巨大な人だと新譜が出りゃ自然と耳には入ってくるわけで、そういう中で今回のように「おっ、こりゃいいな」とまた手に取ってみる機会はこれからも案外あるのかもしれません
 
ところでテイラーさんがアーロン・デスナーに声をかけたときに、アーロンさんはボン・イヴェールとのユニットであるビッグ・レッド・マシンの新作に取り掛かっていたとか。ところがコロナ禍にあってそれが中断したところにテイラーさんから声がかかったらしいです。てことでビッグ・レッド・マシンとしての新作もあるかもですから、これも凄い楽しみです。

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