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連続ドラマ小説「スカーレット」感想
朝の連続ドラマ小説「スカーレット」が終了しました。以前にもここに書いたのですが、朝の連ドラにこんなにも心を惹かれたのは「スカーレット」が初めてです。もう僕の中で戸田恵梨香さんは川原喜美子にしか見えません(笑)。
この1ヶ月ぐらい、物語は喜美子の息子である武志が白血病になる、そして最後に向かってどうなっていくのかというところが焦点となっていました。下世話な話、クライマックスとしておいしいところですよね。ただ「スカーレット」の素晴らしいところはそうした手法を採用しなかった、武志と川原家の日常を丹念に描いていく、そこにしか焦点が向かわなかったところだと思います。
武志の心境が語られる場面がいくつかあって、それは「今日が私の1日なら」という言葉に続くものとして劇中に何度か語られました。それは「いつもと変わらない1日は特別な1日」というもの。最後の1ヶ月ぐらいはまさしくそんな武志の気持ちに寄り添うように、日々の営みの積み重ねのみに重点が置かれていたように思います。恐らく、このドラマ全体のメイン・テーマはここにあったのかもしれませんね。
振り返れば喜美ちゃんの大阪時代。大久保さんとの別れも描かれませんでした。絵付けを学んだ深先生との別れも描かれませんでした。母との死別もそうです。父、常治の最後は描かれましたが、そこも実にあっさりとしたもの。
これらは通常のドラマで言えば折角の盛り上がり所だと思うのですが、このドラマではその場の感傷に寄りかかるような演出は一切しなかった。そこに至るまでの日常を丁寧に描くことで全ては伝わるのだという製作者一同のスタンスは最後までつらぬかれたのだと思います。
そういう意味では安易な情緒に頼らない、視聴者の想像力を信用するというか、作る側と見る側で大人の関係が築けていたのではないかなと思います。
そして「スカーレット」はなんと言っても戸田恵梨香さんですよね。本当に素晴らしい演技でした。10代、20代、そして結婚をして子供を産んで、陶芸家として独り立ちしてっていう、それぞれの川原喜美子をはっきりとした大きな変化を与えることなく、それでいてちゃんとそれぞれの年代としての積み重ねが滲み出る様に演じ分けられていました。
これはホントに、メイクを変えたり、髪型を変えたり、最後は白髪混じりであったりという見た目の変化はありましたけど、それも最小限におさえてですね、僕もそれなりに年を食ってるのでやっぱり分かるんですけど女性の強さの変遷が(笑)。そういう芯の強さ、川原喜美子の屋台骨が次第に太くなる様が伝わってきて、40代の川原喜美子は後ろ姿だけで40代の川原喜美子なんです。演技というのはこういうものかというね、戸田恵梨香さん、本当に素晴らしい俳優さんだと思います。
あとこのドラマはコメディの要素も大きくありましたから、そこを支えた父の川原常治を演じた北村一輝さん。それに常治がいなくなった後半からは幼なじみの大野信作を演じた林遣都さん。面白おじさん担当のお二人は最高でしたね。
それと喜美子の伴侶となった十代田八郎役の松下洸平さん。こんな人いるかってぐらい優しい人でしたけど、その優しさが全然嘘っぽくないんですね。優しすぎない現実味のある優しさっていうところを見事にキープされていたと思います。
そして喜美子と八郎の子、武志役の伊藤健太郎さん。若い俳優さんですけど、喜美子と八郎の子供だなって思わせる部分が時折顔を覗かせるんですね。そのさじ加減、素晴らしかったと思います。
あと大久保さん、深先生、草間さん、ジョージ富士川、みんな印象的でした。そうそうちや子さん!素敵ですよね。僕はちょっと水野美紀さんのファンになりました(笑)。
出演者一同、スタッフ一同、制作者も含め私たちはこういうことをやりたいんだ、こういうメッセージを含んでいるんだということを、そしてそれらをこういうトーンで発信するんだということがしっかりと伝わる、皆さんの哲学が伝わる本当に素晴らしいドラマだったと思います。改めて半年間、こんな素敵なドラマをありがとうございました、今はそんな気持ちでいっぱいです。