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日曜美術館「絵が語る僕のすべて~絵本作家・画家 スズキコージの世界」2019年4月7日放送 感想
芸術と作家の幸福な出会いを見るとこちらまで幸せな気持ちになってしまう。絵本作家で画家でもあるスズキコージさんもそんな一人です。あ、スズキさんの場合はかしこまって芸術と言うのではなく素直に絵と言った方がいいですね。
今は神戸に住まわれていて、時折外に出て大きな絵を描く。坂道の途上にある神戸北野美術館の一隅を借りての下絵も構想もないライブ・ペインティング。知り合いの楽団が訪れ賑やかな音楽を奏でる。観光客がなんだなんだと立ち止まる。辺り一帯、陽気な雰囲気で、そこはまるでスズキさんたち自体が絵本の世界にいるような、絵と実際の境目がない不思議な世界が現れます。
しかしスズキコージさんは今年71歳。ここまでに来るのに大変な時期を過ごして来られました。
東京の芸大を幾つか受験するも全て不合格。それでも静岡から上京し、働きながら絵を描く毎日。幸運な出会いがあり少しは絵での収入も得るが、世間に認められるのは40歳の時に描いた絵本、「やまのディスコ」で絵本日本賞を受賞してから。売れない時期には肉体労働など仕事を転々とし、電話や水道などを止められることもしばしば。それでも絵を描くことは楽しくてしょうがなったと。お腹が減るのも忘れて描いていたと。
スズキさんの画力であれば東京の芸大も恐らく、合格する術はあったはず。けれど、どうも違う、アカデミックな世界は俺には合わないと見切りをつける。売れない時代は絵の仕事を紹介されるも個性が強すぎると首になる。やっぱり純粋な絵描きなんですね。何のために描いているか。そこから離れられないんです。
ライブペインティングは3日に渡り行われました。3日目は生憎の雨模様でしたが、何事もなく絵を描き続けます。スズキコージさんは言います。「絵を描くことが向いてるんだろうね」と。
絵を描くことがイコール生きていくこと。スズキさんは緑内障にかかり、今見えるのは視野が狭くなった右目のみだそうです。全く見えなくなったとき。こればっかりは分からないなと仰ってました。
スズキコージさんは絵を描く。絵本だからとか、子どもに向けてだからとか、世間に向けてだとか、そんなことには一切頓着せずに、好きな絵を描き続ける。「絵描きじゃなかったらもっとさみしかっただろうね。俺が絵をつくりだせる人間だった。その絵が僕の生活を豊かにしてくれてるんだと思う。」
冒頭に僕は、芸術と作家の幸福な出会いを見るとこちらまで幸せな気持ちになってしまう、と書きましたが、そんな簡単なものではないですね。到底出来ないことです。スズキさんのライブ・ペインティングを直に見てみたい。そんな風に思いました。