Revelator/Tadeschi Trucks Band 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Revelator』(2011)Tadeschi Trucks Band
(レヴェレイター/テデスキ・トラックス・バンド)

 

移動している時に聴きたい音楽というものがあって、それも通勤電車とかそういう場合ではなく、一人でどこかへ出かける時、或いは出張か何かの帰り、少し旅に近い感覚が入り混じった時に聴きたくなる音楽というものがある。そうだな、やはり車ではなく電車がいい。それも長距離を移動する特急列車、または新幹線でもいいかもしれない。例えばトンネルを抜けたら、普段は見慣れぬ景色がパーッと広がって、普段は感じえないような心持ちが動き出す。すると偶然耳に付けていたイヤホンからそんな感情を包み込むいい音楽が流れてきて、気持ちが揺らいでしまう。けれど少し懐かしくもあって胸が熱くなったりして。誰しもそんな経験があるかもしれない。

ギタリスト、デレク・トラックスと彼のパートナーであるスーザン・テデスキを中心とした大編成バンド。ここに集まった面々は超一流のミュージシャンではあるけれども、このアルバムを一段素晴らしいものにしているのは、彼らの音楽に対する深い愛情であり、音楽仲間たち相互のリスペクト、すなわちミュージシャン・シップという一言に尽きるのではないだろうか。

デレク・トラックス・バンドは以前から気にはなっていたバンドのひとつ。でも、どうもしゃがれ声のボーカルに馴染めなかったんだけど、今回は、そのマイク・マティソンがバッキング・ボーカルに回り、スーザン・テデスキがメインを努めている。個人的に最高というわけではないが、まあいいんじゃないだろうか。合う合わないというよりむしろ、信頼関係がそれを凌駕してしまっているというべきかも。

本作のハイライトはなんと言っても前述のマイクとデレクによる共作(バックに回ったが、マイクはなかなかええ仕事しよる)、M3の『ミッドナイト・イン・ハーレム』。デレクのスライド・ギターと、こちらもデレク・トラックス・バンドから参加のキーボード・プレイヤー、コフィ・バーブリジュによるハモンド・オルガンとの掛け合いは言葉では言い尽くせない美しさ。ただ事実を淡々と述べる詩と、抑制したスーザンのボーカル、そして素晴らしい演奏が言葉以上に雄弁に語りかけてくる。僕はアメリカの大地も知らないし、英語も解さないが、胸が熱くなり涙がこぼれてしまった。

音楽と共にある人生。アルバムを聞きながら、ここにいるミュージシャンたちを思い浮かべるとき、僕にはふとそんな言葉がよぎった。勿論、いいことばかりではないだろうが、音楽なしでは生きてゆけない彼らの音楽は、1+1が5にも6にもなるまさにバンド。そんな彼らに音楽の女神がそっと微笑んだのかもしれない。

僕たちは何処から来て何処へ向かうのか。今手にしたこの場所は最善なのかもしれないけれど、僕たちの故郷はもっと他の場所にあるのではないのか。移動するときに聴きたくなる音楽というのは、そうした人が本来持ちうるノマド的な感覚を補完する音楽なのかもしれない。

 

1. Come See About Me
2. Don’t Let Me Slide
3. Midnight in Harlem
4. Bound for Glory
5. Simple Things
6. Until You Remember
7. Ball and Chain
8. These Walls
9. Learn How to Love
10.Shrimp and Grits (Interlude)
11.Love Has Something Else to Say
12.Shelter

 (日本盤ボーナストラック)
13.Easy Way Out

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