Damn/Kendrick Lamar 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Damn』(2017) Kendrick Lamar
(ダム/ケンドリック・ラマー)

僕は音楽を聴く時に勿論音楽としてカッコいいかどうかというのが一番前に来るんだけど、言葉についての優先順位も割と高い。そんなこと言ったっておめえ、英語喋れねぇじゃねぇかって言われたらそりゃそうなんだけど、やっぱ詩がいいとその音楽は一段も二段も良くなってくる。とはいえ、まず最初にメロディがあってそっからリリックだったりサウンドだったりってとこに目が行くわけだから、最初のメロディのところで引っ掛かってこないと、手に取ることはあまりないのかもしれない。多分僕がヒップ・ホップ音楽を聴かないのはそんなところに理由があるのだと思う。

僕はたまたまケンドリック・ラマーの前作、『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』をタワレコで試聴して、あまりのカッコよさにしびれて思わず購入。リリックを読んでまたそこでぶったまげたって経緯がある。だから今回の新作もほぼオートマティックに購入した。ただ聴く前から分かっていた。楽しい音楽ではないって。それでも彼の音楽は聴く必要があるっていう気持ちは消すことは出来なかった。

僕は音楽に何を求めているのか。それは楽しいということ。こう書くと馬鹿みたいだけど、いい気分になりたいだけだ。もしかしたら日々の上手くいかないこと、くだらないことへの埋め合わせを音楽に求めているだけかもしれないけど、でもやっぱりそうじゃない。いいものに触れたい。美術館へ行って絵画を見るように僕はいい音楽を聴いてその素晴らしさにうっとりしたり、刺激を受けたり、新しい何かを知ったり、大前提としてそういうポジティブな要素が僕の中にある古いものを上書きしていく、それを心のどこかで求めている、だから音楽を聴いているのだと思う。なんかわざわざ書くとめんどくさい理由になってしまうけど、単純に好きだから、いい気分になるから聴いているのだ。

決して愉快な音楽ではない。でも普段ラップを聴かない僕にまで惹きつける理由は何なのだろう。それはきっとケンドリックは本当のことしか歌っていないからだ。ファンタジーや夢や理想のような何かにくるまれた世界の事を遠くから優しく歌っているのではなく、彼が目にしたそこにある危うい現実をありのまま、直接ナイフで切るように切られるように歌っているからだ。勿論そこに描かれている世界は僕に共感できる代物ではない。僕は平和な日本でのん気に育ったただの中年だ。僕の生活にはドラッグのドの字も出てこないし、友達が銃で撃たれたりはしない。それでもケンドリックの声は聴く必要があるのだ。膨大な歌詞カードを追うのが大変だし、ネガティブなリリックがあるし、決して楽な音楽ではないにも関わらず、お前ちゃんと聴いとけよって声が僕の体のどっかから聞こえてくるのだ。

そして彼の歌もそんな僕を拒否らない。彼の歌は万人に開かれているのだ。オレの言ってることが分からなくてもいいよ。オレのラップとかオレの態度とかオレのライムとか何でもいいからを楽しんでくれよって。だから僕は楽しんでる。彼の早口でまくりたてるラップに、転がってく韻律に、膨大なリリックに。僕はここに歌われている世界のリアリティを僕のリアリティとして受け取ることは出来ないけど、彼の歌い手としての心意気をちゃんと分かっているつもりだ。だからこそ僕には彼の音楽が開かれていると感じるのだろうし、彼もまた僕のような部外者にも扉を開いてくれるのだろう。

僕にはケンドリックのコンサートで『Humble』を大合唱する連中のような感情は持ち合せていないけれど、そういう事実を理解するし、それは本当に素晴らしい光景だと想像できる。僕はそれでいいと思っている。僕にとってケンドリックの音楽は僕の中の古いものを押しやる新しいもの以外の何物でもないのだから。

 

1. Blood
2. DNA
3. Yah
4. Element
5. Feel
6. Loyalty (featuring Rihanna)
7. Pride
8. Humble
9. Lust
10. Love (featuring Zacari)
11. XXX (featuring U2)
12. Fear
13. God
14. Duckworth

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