洋楽レビュー:
『22,A Million』(2016) Bon Iver
(22、ア・ミリオン/ボン・イヴェール)
ボン・イヴェールとしては久々の新作。前作がグラミー獲っちゃったもんだから、本人もびっくりして構えてしまったとこはあるかもしれないけど、こうやって新作を聴いてるとちゃんとボン・イヴェールとしての切り口を更新しちゃってんだから、やっぱ大した才能だ。
ボン・イヴェールことジャスティン・バーノンはもともと色んなユニットを持ってて、アウトプットに応じてとっかえひっかえしてるみたい。それぞれの特徴を僕はよく知らないが、ボン・イヴェールとして出す場合は割と個人的な側面が強い時ではないだろうか。そういう意味じゃ前作までは自然ばっかの片田舎で一人キャンバスに向かうっていうイメージだったのが、今回は仲間を沢山呼んで騒ぎ散らかした後の余韻が欲しかったんですみたいな感じ。カッコよく言やあ、祝祭の感覚、祭りの後みたいな。
ただ今回も自然豊かな情景が背後にあるかっていうと、そうでもなく随分と息苦しくなってきているのも確か。ボーカルにエフェクトがかけられたり、ノイズがバシバシかかってたりとストレートな表現とはほど遠い。なんでそんなにフィルター欠けるのかは本人にしか知る由もないが、ただやっぱりそこは作者の現実認識というか、今の世、実際に何かを発してもそうなってゆかざるを得ない現実世界があるからかもしれず、逆に言えば我々はもうそうすることでしか自由に表現することが出来ない体になっているということなのかもしれない。リアルタイムに生の声を届けることが出来る時代になったけど、逆にリアリティは減じているのではないかという。それを力づくで伝えようとした結果がこれ。鼓膜に直接傷を付けていく感じが面白い。しかし混沌としたサウンドになってはいても本人はさほど不自由に感じていないだろうし、むしろ今の気分としてはこれが自然な形なのかもしれない。この自由なのか不自由なのか分からない感じはまるでSF。
ボンイヴェールの音楽は絵画的な要素があって、音楽を聴くという感覚も勿論あるけど、観賞しているという意識もかなりの部分ある。今回も絵画は絵画なんだけど、より筆のタッチは激しく、色使いも鮮やかになり、勿論細部まで手は行き届いているが、全体として面で押す感じが強い。細かいニュアンスを見て欲しいというより、とにかく聴いてくれ、って感じ。そういう意味では前作が内にこもる狂気をはらんでいたのに対し、今回は目線がずっと外に向かっている気がする。音楽的にもエレクトリカルな要素が強いし、そこにホーンが絡んだりするので(これがまたいいんだな)、結構目線があちこち行って聴いてて結構楽しい。こういう感じは前作には無かったな。#4みたいなシリアスなやつの後にポッとフォーキーな#5が来るみたいな表情の豊かさが全編通してあって、随分聴きやすくなったのではないか。
まあ聴きやすいといってもこういう音楽だから人によるんだろうけど、ただ凡そポップ・ミュージックの決まり事なんか始めから頭にないような、作者が描いた風景がそのまま出てきたような音楽を聴くことは僕にとってもいい体験。馴染みのあるフォーマットのメロディがないのは、逆に言えばジャスティン・バーノンに明確なメロディがあるからだろう。
どっちにしてもこれまた凄い作品だ。色んな顔を持っているので、ボン・イヴェールとしての作品がまたあるのかは分からないけど、次も期待しないで待っておこう。慣れるまでは大変だが、そうやってまで聴く価値のある作品。
1. 22 Over Soon
2. 10 Death Breast
3. 715 Creeks
4. 33 “God”
5. 29 #Strafford Apts
6. 666 Cross
7. 21 Moon Water
8. 8 Circle
9. 45
10. 1000000 Million