Ti Amo/Phoenix 感想レビュー

洋楽レビュー:

『Ti Amo』(2017)Phoenix
(ティ・アモ/フェニックス)

6枚目、2013年の『Bankrupt!』から4年ぶりのアルバムが届いた。そう、フェニックスのアルバムは届いたという言い方がしっくりくる。メイン・ストリートから少し離れたところで、自分たちのペースで音楽を奏でる。いい曲が幾つかできたから皆に紹介するよ。いつもそんな印象だ。でもしっかりとした芯があって、哲学と言うのかな、そういうものが揺るぎない。今回は前作とは一転、穏やかな音楽。しかし彼らの意志がこれほどはっきりと示されたアルバムは過去になかったのではないか。

タイトルはイタリア語で「愛している」。なんでも今回のアルバムは‘イタリアの夏のディスコ’というイメージで作られたそうだ。僕はイタリアに行ったことはないけど、頭に中に浮かんだのは、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』とか『ライフ・イズ・ビューティフル』とかのあの景色。夏の南イタリアの風景だ。そういえば最近のインタビューで面白いことを言っていた。「例えばマカロニ・ウェスタン。あれはイタリア人の解釈で撮られたウエスタン映画。そこに面白さがある。今回のアルバムで言えば僕らのヴィジョンを通したイタリア。そこには僕らを通過した歪みがある。」。これは面白い指摘だと思う。でも表現というものはすべからくそういうものかもしれないな。

彼らはベルサイユ宮殿の傍で育った根っからのパリジャン。けれどいつも英語で歌う。しかし今回は珍しくフランス語の歌詞がふんだんに出てくるし、タイトルどおりイタリア語の歌詞だってある。ということで、彼らの音楽は元々ヨーロッパ的だけど、今回は特にヨーロッパ的だ。これは意図的にそうしたというより、自然とそうなったという方が的を得ているのではないか。彼らの皮膚感覚がそうさせたのではないかなと思う。要するに今ヨーロッパは大変な時期を迎えていて、その影は彼らの日常にも落ちているということ。しかし彼らは殊更そのことについて歌ったりはしない。むしろここで歌うのは半径数キロ、生活圏の物語だ。自由を愛し、お喋りを愛し、そして愛を語るのやめない人々のちょっとした物語。そういう身近な事を歌っている。彼らが今、一番大事にしているのはそういうことなんだと思う。

そういう意味ではサウンドも穏やかだ。前作で目に付いた派手なサウンドは随分と控えめ。初期の頃の、それこそ2枚目の『Alphabetical』のような隙間を活かした音作りがなされている。派手なシンセの音が遠ざかった分、ちょっとしたギター・フレーズがよく聴こえて心地よい。ひと言で言うととても優雅。言葉もロマンティックだけど、サウンドもロマンティック。穏やかだけど物凄くエモーショナルでとてもいい感じだ。

エモーショナルと言えば、最後の曲なんてたまらない。いつまでもこういう素直な表現が出来るのは素晴らしいと思う。僕たちにもイノセンスを信じ続ける強さが必要だ。

1. “J-Boy” J-ボーイ
2. “Ti Amo” ティ・アーモ
3. “Tuttifrutti” トゥッティフルッティ
4. “Fior di Latte” フィオール・ディ・ラッテ
5. “Lovelife” ラヴライフ
6. “Goodbye Soleil” グッバイ・ソレイユ
7. “Fleur de Lys” フルール・ド・リス
8. “Role Model” ロール・モデル
9. “Via Veneto” ヴィア・ヴェネト
10. “Telefono” テレーフォノ

映像が喚起されていい感じ。
彼らの優しさと強さが入り混じったいいアルバムだ。
僕のお気に入りは#4。美しくて幸せな気分になる。

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